混ぜて焼くだけで3層に分離!「魔法のケーキ」を科学した
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 1つの生地を焼くだけで3層のケーキになることで話題を集めた「魔法のケーキ」。材料は卵、砂糖、小麦粉、牛乳と、至ってシンプルであるにも関わらず、混ぜ方と焼き方を少し工夫するだけで、綺麗に分離したケーキとなる。そのさまは、まさに「魔法」のようである。

 しかし、魔法を魔法で終わらせない。この分離の秘密を、解き明かしてみたいと思う。

魔法のケーキとは何か(おさらい)

 まずは簡単に、魔法のケーキの作り方を紹介する。魔法のケーキは、フランスで話題となったのがきっかけで日本にも上陸した。見た目はこのように3層に分離しており、下から順に、フラン(固めのプリンのよう、カスタード(トロっとしてる)、スポンジとなっている。

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 作り方も、いたって簡単7ステップ。

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1.ボウルで卵黄2個と砂糖45gを混ぜる
2.常温にしたバターを60g流し込んで混ぜる
3.ふるった薄力粉50gを練りこむ
4.牛乳250mLを入れて混ぜる(ここまでの生地を仮に生地Aと呼ぶ)
5.別のボウルにて砂糖25gと卵白2個からメレンゲを作る。
6.メレンゲを4.の中に入れ、かなりゆるく混ぜる
7.タッパー内60度程度のお湯をはり、湯煎しながらオーブンで30min〜1hほど焼いて完成!

(※荻田尚子『魔法のケーキ』(主婦と生活社、2015年), p6-7を参照した。)

 さて、この工程の一体どこに、分離のきっかけがあるのだろうか。

どの時点で分離する?検証

 おそらくポイントは、6の部分である。6の「かなりゆるく混ぜる」をもう少し具体的に記述すると、生地Aの入ったボウルの中に、メレンゲをそっと落とすように入れ、メレンゲを5〜6回ひっくり返すようにしながら、混ぜ切らない程度に生地Aになじませるのである。

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 生地Aにメレンゲを入れたての様子。これを混ぜ切らず、なじませる程度で終わらせる。

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 ここで、この生地のどの成分が分離を引き起こしているのかを調べるべく、生地A(左)、生地Aとメレンゲを混ぜ切ったもの(真ん中)、メレンゲ(右)とそれぞれ分けた状態で焼いてみた。

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 その結果がこちらである。まずは生地A。

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 なんと、生地Aは、すでに2層に分離していた!この生地Aはメレンゲと混ぜ合わさる前から、すでに分離するポテンシャルを持っているのだ。

 そして、生地Aとメレンゲを混ぜきったものはこの通り、3層に分離していた。

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 下の2段は生地Aの2層と同じ様子であることから、生地Aとメレンゲを混ぜた後も、なんらかの理由でメレンゲが上部に移動し、一番上の層となるのだと推測された。

 最後はメレンゲ。生地A+メレンゲの3層目はスポンジのような見た目であったが、単体で焼いた場合はマシュマロのようにもっちりとしていた。

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なぜ分離する?科学的な考察

 それぞれの様子がわかったところで、分離する理由を考えてみる。魔法のケーキに関する学術論文があるわけではないので、あくまで推測となることは断っておきたい。

まず、下の2層、生地Aがなぜ分離するかを考えてみよう。

 基本的なフランは卵+砂糖+牛乳、カスタードは卵黄+砂糖+小麦粉+牛乳という材料でできている。つまり両者の大きな違いは、小麦粉の有無にある。それでは、今回の場合も、一度均一に混ぜたの生地が、ドレッシングが分離するかのごとく、小麦粉を含む層と含まないそうに分かれたのであろうか。

 おそらくこれは、NOである。なぜなら、(ある閉じた系に注目した時の)自然に進行するプロセスはすべて「熱力学第二法則」に従っているからである。これは簡単にいえば、秩序が保たれた状態から秩序が壊された状態に向かうということだ。「エントロピーが増大する」という表現も使われる。わかりやすい例としてよく挙げられるものに、綺麗に整頓した部屋も、放っておくと散らかってくること、がある。
 こうした理由から、卵、砂糖、牛乳、小麦粉、が複雑に混ざり合って生地になった(秩序が壊された)状態から、小麦粉だけがまた独立して分離する(秩序が回復する)状態になることは考えにくいのだ。このため、魔法のケーキにおけるフラン部分とカスタード部分は、同一の材料で成り立っているものだと仮定する。

 その上で違ってくるのは、熱の伝わり方と、それによる食品成分の変化である。

 一番下の段は、型の底面および側面に生地が触れている部分であるため、型の金属から熱が伝わりやすい。また、今回は湯煎方式の加熱で、型は空気ではなく、水に触れている。空気よりも水の方が熱を伝えるスピードが速いため、より卵のタンパク質の変性や、小麦粉のデンプンの変性が進み、より固めのテクスチャーに変化すると考えられる。しかし、生地が一番下にあるため、加熱によって蒸発するはずの水分(空気)が抜けていく隙間がない。こうした理由から、固めではあるものの、しっとり感を保持した、固めのプリンのような層が出来上がるのだと思われる。

 一方で真ん中の層は、上の層のように空気を媒介に熱が直接伝わるのでもなければ、下の層のように金属から直接熱が伝わる面積も少ない(型の側面には触れている)。このため、下の層と比べて加熱が不十分になることが考えられる。卵のタンパク質の変性は60度付近から始まり、70度以上で変性し、80度以上で完全に固まる。この際、温度の上昇速度が速いと固めのゲルを形成し、速度が遅いと柔らかいゲルを形成することがわかっている。また、デンプンも、95度に達するに連れて粘度が上がっていくことがわかっているが、温度上昇が不十分であると、粘度が低く、とろっとした状態になると思われる。こうした理由から、より柔らかくとろみのあるカスタード層が出来上がるのだと思われる。

 魔法のケーキを湯煎で焼くことは、こうした温度上昇速度に差をつける意味があったのだといえるかもしれない。

 最後に、一番上の層は、メレンゲと生地Aがゆるく混ざり合ってる状態で出来ている。メレンゲそれ自体はすでに空気をたくさん含んでいる。それが生地Aと混ざり合うことで、焼く前のケーキのスポンジに近い構造になると思われる(スポンジも卵+砂糖+小麦粉+牛乳で出来ているが、カスタードよりも牛乳が少なく、小麦粉が多い点が特徴的である)。加熱の時、一番上は上部に空間があり、加熱によって水蒸気が抜けていく十分なスペースがある。水分の蒸発は60度程度からが始まるが、熱を持つ空気が直に当たるため、加熱も十分に行われ、蒸発した部分には空間ができる(水が水蒸気になる時、体積が増える。それがふくらみとなる)。こうした理由から、メレンゲと生地Aを混ぜることで、ふくらみのあるスポンジのような層が出来上がるのである。

調子に乗って抹茶味を作ったら…

 だいぶ作りかた方覚えてきたので、抹茶味にも挑戦してみた。メレンゲと生地Aにそれぞれ抹茶パウダーを混ぜるバージョンである。

 しかし…

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_人人人人人人人人人人人人_
> 4層になってしまった  <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

 …魔法のケーキ、まだまだ奥が深そうである。

 本稿の執筆にあたり、分離についての考察および原稿のご校閲にご協力くださった宮城大学の石川伸一先生に深く御礼申し上げます。 

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

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 石川伸一(いしかわ・しんいち)。1973年、福島県生まれ。98年、東北大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、北里大学助手・講師、カナダ・ゲルフ大学客員研究員(日本学術振興会海外特別研究員)などを経て、現在、宮城大学食産業学部准教授。博士(農学)。専門は分子食品学、分子調理学、分子栄養学。主な研究テーマは、鶏卵の栄養・機能性に関する研究。

◎著書:『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)
◎ウェブサイト:「分子調理ラボ」

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