食品ロスはなぜ止まらない?人が食べ物を捨てる意思決定の心理学
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 最近、食品ロスを問題視する声をよく耳にしないだろうか。今年1月に日本でも公開された映画『0円キッチン』では、捨てられた食品のうち、まだ食べられるものだけを使っておいしく調理する斬新な試みが描かれており、注目を集めた。レストランやスーパーだけでなく、家庭における廃棄も、食品ロスの大きな割合を占めている。無駄に捨てられてしまう食品を減らすためには、どのようにしたら良いのだろうか。

 こうした問題の本質に少しでも近づくために、人が食品を捨てる時の意思決定のしかたを調べた研究を見てみよう。

脳が意思決定する2つのルート

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 これまでの研究から、人が商品を購入するときの判断のしかたには、2種類のルートがあると言われている。一つは「中心ルート」と呼ばれるものだ。このルートでは、広告の文章をしっかり読んだり、商品の性質を丁寧に吟味することで、購入するか否かを決定する。つまり、どちらかといえば理性的な決め方である。一方で、「周辺ルート」と呼ばれるものでは、好きな女優がCMに使われているから、パッケージがなんとなく好きだからといった、感覚的な理由で商品の購入を決定する。
 人の脳は常に省エネ志向であるため、強い目的意識を持たず、スーパーなどで何気なく買い物している時には、周辺ルートによる意思決定をしている場合が多いと考えられる。特に日常生活で食品を買うときには、原材料や見た目、産地、賞味期限などを1点1点ゆっくり吟味しながら買い物をすることはあまりないのではないだろうか。このように、食品は、周辺ルートによる意思決定をされやすい対象であると言えよう。

 これは、食品を買うときだけに限らない。買った後で一定期間家で保存していた食品を廃棄するか保存するかを決める時も、脳は同じように、省エネな方法で決めようとするだろう。

食品を捨てるときには3つの決定パターンがあった

 これまで、商品を買うときの意思決定プロセスを調べた研究は多くあったが、処分するときの意思決定プロセスに関する研究は少なかった。京都大学大学院の野々村真希さんは、これまでの研究で明らかになっていることをベースに、人が家庭にある食品を廃棄するか保存するかを決定するときに、どのような判断パターンがあるのかを調べた。

 実験には、「発話思考プロトコル分析法」という手法が用いられた。具体的には、ご家庭にお邪魔して、冷蔵庫の中身を見せてもらい、1つ1つ「これは保存しますか、廃棄しますか」と聞いていく。そのときに「そうねー、賞味期限はまだだし、見た目も新鮮に見えるから、このまま保存するわ」などと、その場で感じた理由と共に保存・廃棄を決定してもらう。こうした発言のデータを集めることによって、保存・廃棄を決定する時によく使われる情報や、情報の優先順位、情報の数などを調べることができるのだ。実験では7人を対象に、合計458つの食品についてのデータを集めた。

 その結果、人が食品を廃棄する時には3つの決定パターンがあることが分かった。なお、決定に関わる食品の情報の平均は1.6つで、多い被験者でも2.4つであった。つまり、1つか2つの情報を、以下の3パターンの中で用いて、サクっと廃棄か保存を決めていることが分かった。

1)分離型
 このタイプでは、廃棄するに十分な理由(十分条件)を定め、その食品が1つでもそれを満たすと、廃棄を選択する。廃棄を選ぶ時には、加工食品なら表示期限、野菜なら見た目という理由で廃棄が決められがちであった。反対に、保存を選ぶ時には、表示期限や保存期間、保存性など、様々な角度から保存を選択しようとする姿勢が伺えたという。

2)天秤型
 このタイプでは、食品の情報を保存・廃棄の天秤にかけて、より良いと感じる方法を選択する。天秤にかける情報は、表示期限や保存期間、使用見込み、残量などがあった。古いものでも、使用する見込みや、残量が多い場合などは、保存する傾向があった。また、野菜は見た目、加工食品は保存性などによっては、期限が切れていても保存する傾向にあったという。

3)積み重ね型
 このタイプでは、まず廃棄に気持ちが傾いたあと、廃棄を後押しするような情報を追加で見つけて廃棄を決定する。ここでもまず一番目に見られるのは、表示期限や保存期間で、次に使用見込みや好みであった。野菜では見た目、加工食品では使用状況も考慮された。廃棄を決定するときには、より多くの情報を元に決定する傾向にあったという。

 また、研究を通じて、人はなるべく食品を保存したいと思っており、捨てる時には理由をいくつか集めて正当化するような傾向があることが見られた。やはり誰でも、食品を捨てることには多かれ少なかれ後ろめたさがあるのだろう。しかし、このときに保存を選んだからといって、あとで実際に使われるかはまた別の問題となってくる。
 さらに、期限を重要視する発言が多かったものの、実験で口にされた廃棄・保存決定の理由の中に「品質と安全性の区別」に関する発言が少なかったことから、人は必ずしも、賞味期限・消費期限の厳密な意味を意識して決めているとは言い難い。むしろ、その期限という”権威”を信じ切ることで、脳が意思決定を簡略化させているとも考えられる。

 食品ロスを減らすには、「保存」を選択するだけでなく、期限内に使い切る方法を積極的に調べたり、広告パッケージに使い方を示して使用見込みを高めるなどの工夫が必要だと考えられる。先進国においては、どこにでもあり、いつでも手に入れることができる食べ物を大切にしていくためには、脳の省エネ志向に抗うことが鍵になるのではないだろうか。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

*参考文献
食品処分における消費者の情報処理プロセスの解明

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