パイを焼くときの科学的な7つのコツ
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 アップルパイのような王道のお菓子や、パイ包みのような料理など、パイ生地の使い道は広いですね。しかし、いざパイを焼こうとすると難しいもの。うまく膨らまなかったり、サクサクした食感にならなかったりすることがしばしばです。
 調理科学の世界でも、材料や生地の製造法、焼き方などを細かく調整しながら、どうしたらパイがうまく焼けるのかについて調べられてきました。この記事では、調理科学研究で明らかになった、パイの出来を左右する7つのポイントを紹介します。

パイはどのような構造をしているか

 パイの材料はとてもシンプルです。小麦粉と油分と水と塩。この限られた材料が、混合と加熱によって、多数の薄い層が重なったサクサクとした食べ物に変化するのです。
 パイの構造について詳しく見てみましょう。パイ生地において、その層の骨格を支えているのは、小麦粉に含まれる「グルテン」というタンパク質です。小麦粉には、「グルテニン」と「グリアジン」と呼ばれる、グルテンの元になる2種類のタンパク質が含まれています。小麦粉に水を加えてこねると、このグルテニンとグリアジンが結びつくようになります。

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 グルテニンもグリアジンもタンパク質なので、20種類のアミノ酸が連なってできています。水と共に小麦粉がこねられていくと、アミノ酸同士の水素結合、ジスルフィド結合、イオン結合といった分子レベルでの結合が引き起こります(*1)。こうしてグルテニンとグリアジンのアミノ酸が結びつくとグルテンが形成されます。グルテンは網目のようなネットワーク構造を形成しています。このグルテンネットワークの隙間に、小麦粉のでんぷんや、油脂が混ざり込んでいるのです(*2)。

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(画像元:Visualization of Gluten, Starch, and Butter in Pie Pastry by Fluorescence Fingerprint Imaging)

 パイ生地を焼き始めると、油分が溶けて隙間ができたり、水分の蒸発に伴って網目の空間がふくらんだりします。さらに、グルテンの熱凝固や、でんぷんの糊化といった現象が引き起こることで、その膨らんだ網目構造が固定されます。こうして多数の層から成るサクサクのパイができあがります(*3)。

パイの構造を支える7つのポイント

 パイをうまく作るとは、こうした構造をうまく作り上げることだといえます。パイの構造を左右する7つのポイントをご紹介しましょう(*3)。

1)小麦粉の種類

 パイの構造を決定づけるのはグルテンであり、グルテンは小麦粉に含まれているものです。小麦粉には強力粉・中力粉・薄力粉などがあり、それぞれ含まれているタンパク質(グルテンを含む)の量が違います。強力粉を使うと、層の形成や膨らみは良くなりますが硬くなりがちです。一方で薄力粉を使うと、柔らかさは良いものの、層の形成や膨らみが悪くなりやすいです。パイのレシピによって使う小麦粉が異なりますが、強力粉と薄力粉を1:1の割合で混ぜ、小麦粉中のタンパク質の割合が9〜11%程度になったものを使用すると、硬さや層の形成や膨らみが良いパイができやすいようです。

2)油脂の割合

 しかし、小麦粉のタンパク質だけでは、パンのように硬く弾力のある食感になってしまいます。パイのほどよい柔らかさやもろさを生むには油脂が欠かせません。油脂の割合も層の形成やもろさに影響するのです。カロリーをカットしたいからといって、油脂を50%以下にしてしまうと良いパイに仕上がりません。通常は、油脂が溶けることでそこに隙間が生まれますが、油脂が少ないと、油脂はでんぷん粒子の間に入り込んでしまい、層の形成がうまくいかないと考えられています。うまく層を作り膨らませるためには、油脂は70%以上含むのが良いようです。また、マーガリンなどの植物性油脂を使うとしまりがよく、バターなどの動物性油脂を使うとより柔らかめに仕上がるようです。

3)食塩の割合

 食塩はグリアジンやグルテニンの結合を促すため、グルテンネットワークを強くします。このため、生地の伸縮性をあげ、空気を保持し、大きく膨らむことに寄与します。しかし、多く入れすぎると、パイが膨らんだあとの縮みが大きかったり、グルテンネットワークが強くなりすぎて硬い食感になってしまいます。食感をよくするためには、全体の1.5〜2.5%の食塩を加えるのが良いようです。よく、お菓子のレシピには「無塩バター」を使うと書いてありますが、塩分を入れすぎると出来上がりが変わってしまうことがあるのです。塩分は塩分単体で量を調節できるようにすることで、よりうまくパイを作ることができそうです。

4)生地を折りたたむ回数

 生地を折りたたむ回数は、たいていの場合「3つ折り4回」ではないでしょうか。これも、実験の結果うまく仕上がるとわかっているからこそ、普及している方法です。折りたたみ回数が2回だと、層が少ないため水分蒸発が著しく、油脂の漏れも起きやすいため、反り返って硬い仕上がりになります。反対に、8回、10回、12回と折りたたむ回数を増やすと、もはや焼きせんべいのごとくカチコチになってしまいます。これは、層が薄すぎて、膨らむ前に層が壊れてしまうためだと考えられています。油脂量によっても最適な回数は変わりますが、やはり3つ折り4回はという回数は守ったほうが良さそうです。

5)折りたたみ間の生地の寝かし

 折りたたみの回数と同様に、折りたたみと折りたたみの間に生地を寝かすことも、うまく層を形成する上で重要です。一般的には、折りたたみから次の折りたたみの間には、冷蔵庫で10〜30分程度寝かすのが良いと言われています。生地を寝かすことで生地が柔らかくなって伸ばしやすくなるためです。冷蔵庫で、というのもポイントで、生地の温度が高いと、酵素によってでんぷんに変化が起き、粘度が増したり、パンのような発酵がわずかに起こって少し膨らんでしまうことがありえます。これらを防ぐのと、油脂の流動性を下げる意味でも、冷蔵庫で寝かすのが大切です。

6)焼く前の生地の薄さ

 パイ生地はどこまでも繊細です。材料や折りたたみに問題がなかったとしても、焼く前の生地の厚さによって仕上がりが変わってしまいます。実験では、生地の厚さ/重ねた回数が0.037cm以下のときに上手く焼けることがわかっています。3つ折り4回の生地では、0.4〜0.7cmほどになっていると良いようです。これより薄いと膨らみは良いものの縮みやすく、これより厚いと浮き上がりが悪くなり、厚く重みのある仕上がりになってしまいます。手順通りに作っても上手く膨らまない方は、焼く直前の生地の薄さを気にしてみると良いかもしれません。

7)重量減少率

 これは家庭で直接測定できるわけではありませんが、パイがうまく膨らんでいるかどうかの手がかりの1つに、重量減少率というものがあります。重量の減少は、水分の蒸発や油脂の移動を示しています。焼き始めの重量の減少が多すぎたり少なすぎたりすると、上手く焼けていない可能性があります。実験では、0.4c〜0.7cmの生地を15分焼いた時に、21〜22%ほど重量が減少している場合に、膨らみの良い生地ができあがったといいます。

 パイはシンプルなように見えて実に奥が深いですね。少し面倒でも、材料の割合や生地の薄さなどの数字を細かく気にしながら作ることで、いつもより上手くパイが焼けるかもしれませんよ。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 Chemistry of gluten proteins.
*2 Visualization of Gluten, Starch, and Butter in Pie Pastry by Fluorescence Fingerprint Imaging
*3 パイの科学

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