抹茶スイーツの質は"光"で決まる──抹茶味の生理学
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 抹茶のお菓子の包装は、遮光ができる素材でできたものが多いことにお気づきだろうか。たとえば、ハーゲンダッツの「グリーンティー」のカップは、他のフレーバーのカップとは異なり、遮光加工が施されている。また、茶葉栽培時の遮光を徹底し、アイスまで加工する途中でも、抹茶を扱うときには暗闇の中で作業を行うようだ(*1)。

 抹茶はなぜ、ここまで光に対して慎重でなければならないのだろうか。栽培から抹茶スイーツに至るまでの、抹茶と光の関係を追ってみよう。

1)光の当たり具合で味が変わる

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 お茶の味に関係する成分は、「テアニン」「カフェイン」「タンニン」などが知られており、それぞれお茶の旨味や苦味、渋みに影響すると言われている。これらの成分量は、栽培時の光の当たり方によって変化する。

 たとえば、茶葉に覆いをかぶせて約85%遮光して育てたもの(遮光条件)と、何もかぶせずに光に当てて育てたもの(露天条件)の違いを調べた実験(*2)を見てみよう。こちらの実験では、遮光条件は露天条件と比べて、テアニンやカフェインが多くなり、反対にタンニンが少なくなることが分かった。つまり、遮光を行う方が、旨味や苦味が引き立ち、渋みが弱まるのだ。

 水耕栽培でお茶を育てた場合でも、約80%遮光をした条件では、露天条件と比べてテアニンが4倍、カフェインは1.8倍に増えたようだ(*3)。こうした遮光による効果は、主に春頃に摘まれる「一番茶」で顕著なようである。

2)お茶の味は植物の生存戦略の結果

 光をコントロールすることで成分が変化することは、人間にとって美味しいお茶を作る上では都合が良い。しかし、なぜこのように光によって成分の変化が起こるのだろうか。次は、植物(チャノキ)の立場になって考えてみよう。

 植物は生きるために、根っこから窒素源を吸い上げて、葉の方まで運び、葉の光合成で作られたデンプンなどの材料も使いながら、生存に必要な物質を作り出す、ということを行う。実は、テアニンやタンニンといった物質も、こうした生存戦略活動の一環で生じることがわかっている(*4)。

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 まず、チャノキでは、旨味成分のテアニンは根の中で作られる。土から吸い上げた窒素源をもとに、「グルタミン酸」と「エチルアミン」という物質を作り、この2つの物質をくっつけてテアニンにするのだ。これは、窒素をテアニンという形にして体内に貯蔵するためである。人間が肝臓でグルコースをグリコーゲンにしてエネルギーを蓄えるのに似ているのかもしれない。

 次にテアニンは、根から葉の方まで運ばれる。葉に到着したあとは、光が当たっている場合に、テアニンは分解され、いくつかのステップを経て、タンニンという物質が作られる。葉が光を浴びている時には光合成が行われるが、光の量が多いと「活性酸素」という有害物質ができることがある。タンニンは、活性酸素から身を守る物質なので、光が当たっているときに必要なのだ。一方、光が当たらなければ活性酸素の心配がないため、テアニンの分解は起こりにくくなり、テアニンが溜まったままの状態になる。

 先の実験で、遮光条件は露天条件と比べて、テアニンが多くタンニンが少なくなったのは、こうした植物のはたらきが影響していたのだ。

3)抹茶スイーツの包装にも工夫が必要?

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 これまでは栽培の話をしてきたが、抹茶として商品になってしまえば、テアニンとカテキンの量が変わるわけではない。それでも抹茶は繊細である。たとえスイーツに織り交ぜられたとしても、包装や保管には注意した方が良いようだ。

 たとえば、抹茶の保存温度ついて調べた実験(*5)では、保管温度-70℃、4℃、25℃、37℃と4パターンで24週間保存した場合、抹茶の緑色に関わる「クロロフィルα」という物質の量が、25℃では67%に、37℃では34%にまで減ってしまったようだ。クロロフィルαが減ると、鮮やかな緑色が失われ、黄ばんだような色に変わってしまう。また、25℃や37℃では、抗酸化作用を持つビタミンCの量も減少する。これに伴い、抹茶に含まれる成分が酸化されやすい状態になっていき、変質につながると考えられる。ゆえに抹茶製品は、低温で保存することが推奨される。

 抹茶は育てる段階から製品になってからに至るまで一貫して管理が大変なようだ。しかし、丁寧に扱われた抹茶からできた抹茶スイーツは、抹茶本来のおいしさを堪能できること間違いなしだろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献

*1 発売20年目を迎える日本市場向けフレーバー第1号!ハーゲンダッツの「グリーンティー」のパッケージのヒミツとは?
*2 茶葉の化学成分含量に及ぼす光の影響
*3 水耕栽培茶の環境条件に関する研究
*4 生化学的にみた茶の生産と製造
*5 原料抹茶の保存条件が品質に与える影響

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