肉を自在にデザインできる次世代の「純肉」と、「細胞農業」が描く人類の未来
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 環境破壊が進み、食糧難を迎え、人類が宇宙への移住を余儀なくされた時、私たちの食生活はどうなるのだろうか。現在の宇宙食はバリエーションが豊富になってきているとはいえ、やはり美味しさの面では通常の食事に劣ってしまう。私たちは決して忘れることができないだろう。肉の旨味、噛みごたえ、ジューシーさを。

 こうした未来は、ずっと遠くの話に聞こえるかもしれない。しかし、確実に近づいている未来の宇宙移住を見据えて、すでに対策を進めている研究者たちがいる。SFの世界観をも現実にしうる、最先端の肉の生産技術に迫ってみよう。

肉はテーブルの上で作り出せる?

 私たちが肉を食べるまでには、牛や豚、ニワトリなどの家畜を育て、屠殺し、食用部分を切断して加工する過程が存在する。これが残酷云々といった議論は別のメディアに譲るが、飼育に際する穀物の消費は世界の食糧不足に繋がることが指摘されており、肉食を控えていくべきだという主張がある。と、言われても実際は、食が豊かな日本に住み、食糧問題が遠い世界の話に思える日常を送る私たちが肉食を控えるのは、あまり現実的ではないだろう。環境負荷を減らしながら、私たちが肉を食べ続けることができる方法はないのだろうか。

 主に生物学研究をバックグラウンドとする人たちが集まるベンチャー企業であるインテグリカルチャー株式会社は、「細胞培養」の技術に着目し、持続可能な肉の開発を目指している。現代では、iPS細胞などの再生医療分野でおなじみの通り、体の一部を細胞単位で増やす技術に注目が集まっている。臓器のような大きな単位の再生はまだ技術的に難しいが、皮膚や網膜などの体の一部を再生することはできる。

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 肉は言ってしまえば、筋肉細胞(赤身部分)と脂肪細胞(脂身)で出来ている。つまり、細胞培養の技術を使って、筋肉細胞と脂肪細胞を増やし、うまく融合させることができれば、それは肉になるのではないか。

 こうした発想を持つインテグリカルチャーは、「shojinmeat project」と呼ばれる団体から生まれた。shojinmeat projectは、細胞培養で作った肉「純肉」を世に広める活動をしており、ガチガチの生物学研究者から、経済・文化・社会領域を得意とする人まで、さまざまなバックグラウンドをもつメンバーが所属している。その中でも、インテグリカルチャーは、企業として純肉の培養技術を研究しており、純肉の事業化を目指している。

細胞培養の実態をおさらい

 そもそも細胞培養とは実際何をしているのか、イメージできない方もいらっしゃるかもしれないので、先に簡単に説明しておく。

 細胞培養とは、さまざまな種類の細胞で構成される生物から、細胞を取り出し(または購入し)、成長に必要な栄養素を含む液体の中で増殖させることである。

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 写真のように、シャーレに赤い液体が入っている中で行う様子を目にしたことがある方もいるかもしれない。この赤い液体は「培養液」と呼ばれるもので、実際によく使われるポピュラーな存在である。一見食用に適しているようにはとても見えないが、この赤色はリトマス試験紙のような役割があり、pHを色で確認するために加えられている色素である。培養液に含まれるそれ以外の成分は、ミネラル、糖分、タンパク質、脂質などの、人が普段食べている食物中に含まれるような栄養成分であり、誤って口に入れても支障がないと言われている。また、培養の操作は「クリーンベンチ」と呼ばれる無菌環境の中で行われるため、狭い空間に密集して牛が飼育されている畜舎の中よりも、はるかに清潔な環境で扱われると言えよう。

 細胞の増殖は、無菌かつ、二酸化炭素や湿度・温度が厳密にコントロールされた中で行われる。細胞は、種類にもよるが、だいたい1日に1回分裂するので、週に数回培地を交換しながら、必要な数だけ細胞が増えるのを待つのである。

 以上を踏まえて、インテグリカルチャー株式会社のCTOである福本景太さん(以下、福本)に、純肉や、細胞培養が作り出す未来についてお伺いしてみよう。

独自の培養技術で、フォアグラまで作れる!?

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細胞培養でお肉を作るとは斬新すぎます…!これまでには、どんなお肉を作られたのですか。

福本現段階では、鶏肉作りに成功しています。ニワトリの筋肉細胞が一番手に入れやすいので、実験でもニワトリを使うことが多いですね。

ニワトリの筋肉細胞は、どのように手に入れるのでしょうか。

福本まず、ヒヨコになる有精卵を入手して、孵化装置を使って途中まで孵化させて、あるタイミングで卵を割り、そこから「筋芽細胞」という筋肉のもとになる細胞を手に入れます。この筋芽細胞の量を増やしてから、次に、骨格筋の筋肉細胞に分化させるために必要な成分を含む培養液に変えて、筋肉細胞にしていきます。

受精卵から完全なヒヨコになるまでの途中にある、まだ完全ではない細胞を使う必要があるのですね。

福本今はまだ研究段階なのでそうしていますが、最終的には、成体の家畜から細胞を少し取って増やしたり、筋芽細胞のストックから培養を進めたりして、動物を殺さなくてもお肉が作れるようにしたいと考えてます。

それにしても、培養したお肉という表現にシズルを感じないのですが(笑)実際のお味はどうですか。

福本純肉という名の通り、純粋な筋肉細胞なので、鶏ささみのようにさっぱりした味です。shojinmeat projectのメンバー数名で作った純肉を食べている動画が、ニコニコ動画にも上がっているので、よかったら見てみてください。

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(画像:http://www.nicovideo.jp/watch/sm30099092 よりキャプチャ)

動画で食べられているお肉はかなり少量ですよね。培養で、普段の食事で食べるぐらいの塊肉を作るには、どれぐらいコストがかかるのでしょうか。

福本当初は200gで3000万でした(笑)が、今は培養技術を改良して、理論的には1000分の1から10000分の1ぐらいまでコストカットすることに成功しています。

200gで3000万…!間違いなく、世界一高級なお肉ですね。一体なぜそんなに高くなってしまうのでしょうか。

福本培養液には「牛胎児血清(FBS)」と「成長因子」と呼ばれる成分を加えるのですが、FBSは仔牛の血を抜いて作られているので取れる量が限られていますし、成長因子は純度がものすごく高くなるように作られているため値段が高いんです。500mLで数千円〜数万円ぐらい。そこをなんとか下げたくて、「還流培養」という技術を開発しました。特許も取得済みです!

かんりゅうばいよう、とはどんな培養方法ですか。

福本例えば、ウシの細胞Aに含まれる成長因子Bが必要なのであれば、細胞Aを培養すると、その培養液の中に成長因子Bが滲み出てきます。これを、成長因子Bを必要とする別の細胞の培養に使ってやれば、生きたウシから採取された成長因子Bを買わずに済みます。様々な種類の細胞を培養して、培養と培養をつなげていくようなイメージですね。

筋肉細胞を培養するために、他の細胞も培養する必要があるのですね。

福本そうですね。それと、ミネラルやアミノ酸などを含む培養液自体も、藻類や酵母などから作れるようにして、簡便かつ大量に必要な成分を全て手に入れられるようにすることができれば、だいぶコストを下げることができますね。

細胞培養で、牛、豚、鶏、羊、ジビエなど、私たちが普段食べているあらゆるお肉を作ることができるのですか。

福本はい。筋肉細胞だけでなく、脂肪細胞やコラーゲン繊維などを組み合わせることで、より生の肉に近い食感のものが作れると思います。脂肪の量を調節すれば、霜降りのようなお肉やフォアグラを作ることもできます。僕たちはこれを”デザイナーミート”と呼んでます。筋肉と脂肪の割合を調節してお肉を自在にデザインし、アスリート向けやダイエット向けなどの目的に応じたお肉の開発もできたらいいですね。

現実的に、純肉が市場に出回るようになりうるのは、いつ頃なのでしょうか。

福本まだ法律などが整備されていないので未知数ですが、一般肉は2030年、フォアグラを2022年には出せるように開発を進めています。

目指すは、宇宙で通用する「細胞農業」

shojinmeat projectは、どのような想いで立ち上げられたのでしょうか。

福本CEOの羽生を中心に始まったのですが、羽生は火星植民だとか、人類が宇宙ステーションに住むような未来を描いているんです。

宇宙、ですか…!かなりSF的な思想の持ち主の方なのですね。

福本そうです。火星に行くのには3年かかるらしいのですが、宇宙食は2年ぐらいしか持たないらしいです。残りの1年で餓死してしまうってなった時に、宇宙でも持続できる食糧生産のシステムが必要だ、ってなりまして。タンパク質源として昆虫食のようなものもありますが、やっぱり美味しいお肉を食べたいじゃないですか。でも今だと牛や豚を飼育しなければ肉は手に入らない。そこで、細胞単位で肉を作ろう!ってなったんですね。目指すは、自給自足が出来る細胞農業です。

細胞農業…?

福本食糧をすべて細胞培養で作れるようになれば、牧草地もいらなくなり、農地が原生林に戻るような未来もありうると思っています。野菜工場とか植物工場のようなものはすでにありますが、それの肉バージョンを作りたい。培養食肉タワー的な(笑)。そのためにも、低コストで大きなロットで生産できるような培養技術を確立する必要があります。

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(画像制作:SCIGRA)

福本さんも、宇宙を目指してジョインされたのですか。

福本僕も一度くらいは宇宙にいってみたいですが(笑)、どちらかといえば、この培養技術を進化させることで、格安でお肉だけでなく、他の臓器を作ったり、新しい細胞装置を作ったりできたらいいなと思っています。たとえば、バイオセンサーを作って感覚を増幅・拡張するとか、コンクリではなく培養した植物で自動生成される家を作るとか。

どちらにせよ、ものすごくSF…!(笑)一般の方々に理解してもらうには、少し時間がかかりそうですね。

福本まだまだ認知がされていないので、受け入れられるのかどうか分からない状態ですね。これまでにも、培養肉に関するアンケート調査を実施した報告がありましたが、普通に「食べたいですか?」と聞くと、ためらった意見が多く、「食糧難が来た時に食べても良いと思いますか?」と聞くと、肯定的な意見が多くなっていました。ですので、まだ一般的な意見が固まるまでには時間がかかると思います。

遺伝子をいじる、とも違いますし、「培養する」とはどういうことなのか自体を、正しく認知してもらう必要がありそうですね。

福本はい、我々はできるだけオープンにやりたいから、ニコニコ動画での配信やコミケでの同人誌配布など、なるべくポップな方法で認知を広めようとしています。

イノベーションはコアなマイノリティから生まれることが多いですもんね。

福本まだまだ先の技術ではありますが、長期的にはエコであり、夢のある技術だと思っています!まずは興味を持っていただける方が増えたら嬉しいですね。

福本さん、貴重なお話ありがとうございました!

福本Shojinmeat Projectは共に細胞農業の実現に向け活動してくれるメンバーを募集しています。気になった方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡下さい!

※shojinmeat projectでは、「SCIGRA(サイグラ)」という、サイエンスCG制作を受注する事業も行っていらっしゃるようです。筆者もバイオ出身なのでよくわかりますが、バイオ系の研究は、IT系のベンチャーなどと比べると、お金がだいぶかかります!純肉研究を応援したいかつ、サイエンス系のCG画像が必要になった時には、CG制作を依頼してみてはいかがでしょうか!

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

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fuku (1) 福本景太

 福本景太(ふくもと・けいた)。インテグリカルチャー株式会社 最高技術責任者(CTO)。大学院時代は、学術振興会特別研究員DC1として理化学研究所脳科学総合研究センター(理研BSI)に配属。これまでに学術論文3本、総説4本、著書1本を発表している。専門分野は神経科学で、脳を多数作って繋げることを夢見る。現在の研究テーマは細胞培養の低コスト化・大規模化。

◎Shojinmeat Project:https://www.shojinmeat.com/
◎インテグリカルチャー株式会社:http://integriculture.jp/?lang=ja
◎SCIGRA:http://scigra.com/

 

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