お菓子作りの材料は、科学者にとってどう視えるのか?
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 あなたが食材を分類するときは、どのように分類するだろうか。「野菜」「肉」「魚」…だろうか。または「炭水化物」「タンパク質」「脂質」…かもしれない。それは至極真っ当である。ぐうの音も出ないほど正当である。しかし、世の中にはもう少し違う分け方があるようだ。

食材の「流動のしかた」には4種類ある

 試しに、お菓子作りに使われる主な材料を、分類してみた結果が以下の通りである。

グループ1:生クリーム、加熱前のカスタード、チョコレート
グループ2:チューブバター、練乳、ヨーグルト
グループ3:水あめ、シロップ、サラダ油
グループ4:固形バター、クリームチーズ、メレンゲ

 これらがどのような考え方で分類されているか、予想がつくだろうか。実は、これらは”流動のしかた”で分けられている。

 科学者には、食材を見ると、視えるのである。

 流動の軌跡が!!

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 注:素人には眩しすぎて見えません。

 この場合の「流動のしかた」とは、流動するような食材を2枚の板に挟んで、片方の板を固定して、もう一方の板を水平に動かした時の流れ方のことを言う。

 水のようなサラっとしたものであれば、板を動かす速度を上げても流動のしやすさの変化は小さくてわかりにくい。ところが、はちみつのようにドロっとした食材だと、板を同じ速度で動かしても、水の場合よりも流動しにくくなる。これは、食材が、板を動かす力に対して食材の抵抗する性質(粘性)が、水よりも大きいからだ。

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 粘性が小さいほど流動しやすく、大きいほど流動しにくくなる。

 この記事は他の記事より読むのに時間がかかっているのではないだろうか。なぜなら、ねちっこい文章だからである。”ねちっこさ”が大きいと、読み”流す”スピードが遅くなることを、身をもって体感して頂けるインタラクティブアーティクル。それがこの記事の本質である。

 また、同じ食材でも、板を動かす速度によって粘性の度合いが変化することがある。速度がゆっくりの時はスムーズに動いたのに、速度を上げると動きにくくなるような場合がある。逆もまた然り。これらをふまえて、冒頭のグルーピングの意味を明かしていく。

人が上を歩くこともできる!?〜ダイラタント流体〜

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 たとえば、お菓子作りなどでチョコレートを勢いよくかき混ぜていると粘り気が生まれてくることを知っている方も多いだろう。かける力を増すごとに粘性の度合いが上がって流動しにくくなるものを「ダイラタント流体」と呼び、先のグループ1に相当する。

 特に粘度が大きく上昇するダイラタント流体に、あんかけなどで使われる水溶き片栗粉がある。ダイラタントな性質が強いおかげで、人は加熱前の水溶き片栗粉で満たした25mプールの上を歩くことさえもできる。すなわち、水溶き片栗粉プールが成り立つのである。パリピのみなさん、いかがだろうか。今年の夏は、水溶き片栗粉プールラン!

押しの弱さに共感しちゃう?〜擬塑性流体〜

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 また、チューブバターは、力を加えれば加えるほど柔らかくなり、チューブの口から出やすくなる。かける力を増すごとに粘性の度合いが下がって流動しやすくなるものは「擬塑性流体」と呼ばれ、先のグループ2に相当する。

 昨今では草食系と呼ばれる人々が増えているが、人はやはり押しに弱いものである。何事も諦めず押し続ければ動いてくれることを再確認させてくれるのが、擬塑性流体なのだ。

いちばんピュアなヤツ〜ニュートン流体〜

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 かつて、リンゴを木からぶち落とす地球の荒っぽさがトラウマになったノリでちゃっかり万有引力を発見するに至ったニュートン。彼は、流体に力をかけて流れを起こした時、流れに対してねちっこさが示す抵抗力が流体の変形速度に比例するという法則を発見した。この比例定数を粘度という。ところが、今述べたような食材たちは、ニュートンの法則が通じない食べ物である。このため「非ニュートン流体」と呼ばれている。

 一方、種類は多くないとはいえニュートンの法則に従うタイプの食材もある。たとえば水、濃度の薄いシロップ、水あめなどである。与える力に対する粘度が一定である従順なタイプのものは「ニュートン流体」と呼ばれている。これがグループ3だ。

 ピュアでまっすぐなニュートン流体の食材の数は多くない。周囲の人々の中にも、世の荒波に揉まれてピュアでまっすぐな心がさらわれてしまった人が多いことだろう。ピュアでまっすぐなタイプが貴重なのは、人間も物質も同じなのかもしれない。

冷蔵庫内のおりこうさん〜塑性流体〜

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 最後に、固形バターやクリームチーズに想いを馳せてみよう。もしも、彼らがひとりでに固形であることをやめて、パンの上を滑る時のように冷蔵庫でスケートリンクのごとく滑り出してしまったら、冷蔵庫を何度買い換えても足りなくなる。そうなれば全家庭の冷蔵庫による自己破産率は上昇の一途をたどり、冷蔵庫保険なる保険が誕生してもおかしくない時代が到来するだろう。

 ところが幸いにも、固形バターやクリームチーズが勝手に滑り出すことはない。なぜなら、一定の力を加えない限り動かない性質を持っているからだ。このように、一定以上の力を加えると動き出す性質を示すものは「塑性流体」と呼ばれ、先のグループ4に相当する。

 これで、冒頭で述べたグルーピングの意味が理解できるようになったことだろう。すなわち、

グループ1(ダイラタント流体): 生クリーム(泡立て中)、加熱前のカスタード、ミルクチョコレート
グループ2(擬塑性流体): チューブバター、あんこ、ヨーグルト
グループ3(ニュートン流体): 水あめ、シロップ、サラダ油
グループ4(塑性流体): 固形バター、クリームチーズ、メレンゲ

だったのだ。

 なお、こうした考え方を扱う分野は「レオロジー」というもので、食品のみならず化粧品や塗料の開発場面でも活かされている。ふわとろプリンや口どけの良いチョコレートのみならず、口紅のなめらかな塗り心地や化粧クリームのクリーミーかつサラッとした感触、あるいはスプレーしたらジェルに変わる日焼け止めや、速乾タイプのマニキュアのような製品を作る上でもレオロジーは役立っている。科学者の努力に感謝したい。

 本稿の執筆にあたり、原稿の科学的整合性を丁寧にご検討くださった東京海洋大学の小川廣男先生に深く御礼申し上げます。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

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