一度溶けたアイスはなぜ味が落ちるのか?ミクロな視点からの考察
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 すっかりアイスが美味しい季節になりました。暑い日に食べるアイスはおいしさが全身に染み渡る気分にもなりますが、気温が高いほど溶けるスピードも早まるのが難点です。スーパーやコンビニでアイスを買ってから家に戻るまでの間に溶けてしまうなんてこともしばしば。そして、一度溶けてしまったアイスを再度凍らせても、元通りの美味しさに戻りません。一度溶けてから再度凍らせたアイスは、なぜ味が落ちてしまうのでしょうか。ミクロの視点からその理由に迫ってみましょう。

氷の結晶とアイスの口どけの関係

 アイスクリームを顕微鏡で覗いてみると、氷の結晶や気泡、乳脂肪やタンパク質が凝集したものが見受けられます。このうち、氷の結晶の大きさや形状は、アイスの口どけに関係するといわれています。氷の結晶が小さいほどなめらかな口どけのアイスとなり、氷の結晶が大きいほどシャリシャリとしたアイスとなるようです。市販のアイスは、商品ごとに狙った口どけを作るために、製造過程で氷の結晶が厳密にコントロールされています。

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(画像:「A Low-Temperature Scanning Electron Microscopy Study of Ice Cream. II. Influence of Selected Ingredients and Processes」より)

 画像は、保存0週間目のアイス(a)と24週間目のアイス(b)の状態を顕微鏡で観察したものです(*1)。aと比べてbのほうが氷の結晶のサイズが大きいことが確認できます。これは、冷凍庫などで静かに保存している間にも、氷の結晶が成長することを示しています。(このことは、2マイクロメートル以下の小さな氷の結晶は大きな結晶に取り込まれて成長していく「オストワルド熟成」という現象によって説明されています。)

 アイスの中の氷の結晶は繊細で、ずっと同じ状態ではありません。アイスを溶かしたり再度凍結させることによっても、この氷の結晶の状態が変化し、口どけが変化するのです。

再凍結で氷の結晶が大きくなる

 東京工科大学応用生物学部の則竹寛子さんらは、アイスクリームミックスの凍結や解凍、再凍結によって氷の結晶がどのように変化するかを調べました(*2)。

 まず、アイスクリームの原料となるアイスクリームミックスの凍結前(液体)の様子です。こちらを光学顕微鏡で観察すると、ミックスの成分が均一に分散している様子が観察できます。

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(画像:「アイスクリームの保存温度の変動による氷結晶形態の変化」より。以下同様。)

 これを1分に10℃下降でマイナス30℃まで凍結させてアイスクリームにすると、顕微鏡では何も見えなくなります。論文では、これは全体に微細な氷の結晶が形成されたためだとされています。この状態のアイスクリームの食感は、なめらかであることが予想されます。

B

 次に、これをマイナス0.6℃で解凍すると、再び成分の様子が観察できますが、最初にミックスよりはムラができています。

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 さらに再びマイナス30℃まで凍結させると、先ほどのように何も映らないということがなくなり、細長い氷の結晶が確認できます。このような氷ができる理由として、凍結に伴う濃縮によって生じたミックス内の濃度のムラが、均一にならないうちに再度凍結したことが影響していると考えらえています。この状態のアイスクリームは、先ほどの微細な氷結晶の状態と比べると、シャリシャリとした硬さのある食感になることが考えられます。

D

 以上のように、一度溶けたアイスを再凍結すると、氷の結晶が微細な結晶から大きな結晶に変化することで、口当たりの低下が引き起こるのだと考えられます。さらにこの研究では、解凍温度をマイナス0.6℃以外にも、マイナス0.2℃、0.4℃、0.6℃、解凍時間を0分、10分、20分、30分と変えて試されています。これらの条件で溶かしてから再凍結したアイスクリームの氷の結晶の状態を比較した結果、低温かつ短時間であるほど長細い結晶や複雑な結晶ができることがわかりました。

 もちろんアイスクリームミックスの組成によっても状態の変化の仕方は異なることでしょう。また、今回は氷の結晶に注目していますが、気泡や脂肪球も変化し、それが口当たりや風味を変化させることも考えられます。いずれにせよ、一度溶けたアイスを凍らせても元通りにはならないことが、目に見える形でご理解いただけたのではないでしょうか。これから本格的に暑い日が続いていくと思いますが、アイスのミクロな構造を壊してしまわないように注意していきたいですね。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 A Low-Temperature Scanning Electron Microscopy Study of Ice Cream. II. Influence of Selected Ingredients and Processes
*2 アイスクリームの保存温度の変動による氷結晶形態の変化

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