デカフェコーヒーの作り方──既存の方法3種と未来の技術を紹介
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 コーヒーに含まれるカフェインは、朝の眠気覚ましには有効だが、体質や、コーヒーを飲む時間帯によっては、夜眠れなくなってしまうことがある。そのような問題に対し、コーヒーの味を楽しむことができつつも、カフェインの影響を考えなくて良い「デカフェ」タイプのコーヒーがある。最近は日本でもデカフェを扱う店が増えてきており、カフェインに弱い人には喜ばしい傾向なのではないだろうか。

 ところで、このデカフェのコーヒー、一体どのように作られているだろうか。本当にカフェインが取り除かれているのか、一夜の睡眠がかかっている人には大いに気になるところだ。そこで、この記事では、デカフェコーヒーがどのように作られているかを解説してみたい。

現在のデカフェ技術

 まず前提として、デカフェのコーヒーは、コーヒーを淹れる時にカフェインを抜いているのではない。カフェイン成分が取り除かれたコーヒー豆を使って、コーヒーを淹れているのである。現在、コーヒー豆からカフェインを取り除くには、主に3つの方法がある。

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◎有機溶媒で除去する方法(直接法)

 もっとも歴史のある方法は、溶剤を使ってカフェインを取り除く方法である。

 コーヒー豆の中には、水に溶けやすい成分と油に溶けやすい成分が含まれている。カフェインは水にやや溶けにくく(水の温度を上げていけば溶けやすくなる)、どちらかといえば油の側に溶けやすい性質を持っている。その性質を利用して、油に溶けやすい成分が溶け込みやすい「有機溶媒」と呼ばれる液体を使って、カフェインを抽出する方法がある。

 この方法は1903年に開発され、これまでに改良が重ねられてきた。現在では、安全性を考慮して、「ジクロロメタン」という有機溶媒にコーヒーの生豆を漬けてカフェインを抽出し、その後、生豆を加熱してジクロロメタンを蒸発させて抜いていく、というやり方でカフェインが除去され生豆が作られている。

 こちらの方法では、カフェインを96〜97%ほど取り除くことができる。ただし、やはり”有機溶媒”や”ジクロロメタン”といった、「いかにも化学物質でーす☆」という類のものが食品に使われることに対して抵抗を示す人もいる。また、ジクロロメタンに溶けやすい他の物質も除去されて、風味に影響が出てしまうこともある。

◎水で除去する方法(間接法)

 そこで登場したのが、コーヒー豆を水に浸してからカフェインを抽出する方法である。

 先ほど、カフェインは水の温度を上げれば溶けるようになると述べた。この方法ではまず、温度の高い水に生豆を浸し、カフェインが溶け出した抽出液を得る。その抽出液にジクロロメタンを使ってカフェインを除去したあと、ジクロロメタンを蒸発させて抜く。最後に、カフェインとジクロロメタンが除去された抽出液に再び生豆を浸し、成分を生豆の中に戻す。

 つまりこれは、一旦豆の中身を出す→中身からカフェインを除く→中身を豆に戻す、という方法だ。

 こちらの方法では、カフェインを94〜96%ほど取り除くことができる。また、ジクロロメタンが生豆に直接触れないことや、カフェイン以外に取り除かれてしまう成分を減らすことができるメリットがある。しかし、それでもなお、薬品のようなものを使うこと自体に抵抗がある人はいるだろう。

◎二酸化炭素で除去する方法

 そして登場したのが、ジクロロメタンの代わりに、二酸化炭素にカフェインを溶かす方法である。

 二酸化炭素は私たちが日常的に吸って吐いたり炭酸飲料から摂取したりしている物質なので、これなら文句がなさそうだ。「でも、二酸化炭素は液体ではないじゃないか」と思われるかもしれない。二酸化炭素の固体であるドライアイスも、固体から一気に気体になってしまう。

 実は、二酸化炭素は、圧力をかけまくると挙動が変わる。圧力が通常の気圧の120倍ほどになると、「超臨界状態」という、気体のように動くことができる性質と液体のように物を溶かすことができる性質をダブルでもち合わせた状態になるのだ。

 水で湿らせた生豆に、この超臨界状態の二酸化炭素を用いることで、カフェインを二酸化炭素の中に溶かして除去することができる。カフェイン抽出後は、圧力を元に戻せば二酸化炭素は気体に戻って生豆の中から抜けていく。この方法では、カフェインをなんと99%以上除去することができる。

 どの方法を採用するかはメーカーにもよるが、超臨界状態を作る設備を整える余裕がある場合は二酸化炭素による除去法、ちょっと厳しい場合は水を使う間接法を使っているところが多いようだ。いずれの場合でも、カフェインは大方除去されていると考えて良さそうである。

バイオ研究が作る、未来のデカフェ

 既存の方法は、溶剤を用いたり、超臨界状態の二酸化炭素を作るために大型の装置が必要であったり、必ずしもベストであるとは言えない。そこで、別の方法を使ってカフェインを除去する方法が考案され始めている。

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◎カフェイン自体を持たないコーヒー豆を作る

 こちらは、種なしブドウのように、カフェインなしコーヒー豆を作ってしまえ、という試みだ。

 カフェインはコーヒー豆の中で合成されるが、合成はいくつかの酵素の働きによって進んでいく。言い方を変えると、これらの酵素が働かなければ、カフェインを作ることができないのだ。

 こうした視点から、奈良先端科学技術大学院大学の荻田信二郎教授は、コーヒーの木に「RNA干渉」と呼ばれる遺伝子操作の一種を用いて、カフェイン合成に必要な酵素が作られないようにした(*1)。こうしてできたコーヒーの木から取れるコーヒー豆には、理論上はカフェインが含まれないようになる。一筋縄でうまくいくわけではないが、もしこの方法が理想通りに行けば、取り除くべきカフェイン自体が含まれないコーヒー豆が得られるようになるのである。

◎カフェインを微生物に分解させる

 さらに、ビールに酵母を入れて発酵させるかのごとく、コーヒーに微生物を入れてカフェインを分解させてしまえ、というアプローチもある。

 発酵食品をはじめとして、食べ物の世界では微生物の力が有効利用されるケースが多く見受けられる。カフェイン除去においても、微生物が活躍するかもしれない。

 カフェインを、合成ではなく、分解する酵素が、Pseudomonas putidaという種類の微生物のいくつかから見つかっている(*2)。そこで、この微生物自体を抽出後のお茶に入れてカフェインを除去する実験が行われたが、その微生物の持つ別の物質が有害であることがわかった。現在では、その心配をなくすために、カフェインを分解する酵素だけを取り出して酵素を直接働かせたり、遺伝子組換えによってその酵素を酵母菌などの無害な菌に作らせてカフェインを除去する研究が進んでいるようだ。

 これらの方法はまだ実用化までの課題が多く、実際の製品になるまでには時間がかかるようである。しかし、カフェインだけを選択的になくしたり分解することは、他の風味に影響を与えないことを意味する。これらの研究が進んでいくことで、通常のコーヒーと遜色ないおいしいデカフェコーヒーが味わえるようになるかもしれない。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 Application of RNAi to confirm theobromine as the major intermediate for caffeine biosynthesis in coffee plants with potential for construction of decaffeinated varieties.
*2 Genetic characterization of caffeine degradation by bacteria and its potential applications

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