ワインの「香り」が目で見える!嗅覚センサーの原理とは
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 レストランでワインを選ぶ時、銘柄による違いがよく分からず、結局店員さんのオススメを頼んでしまった、といった経験はないだろうか。ワインやコーヒー、紅茶などの味の特徴は、酸味や苦味といった舌で感じる味覚の要素のほかにも、香りが大きく関係している。

 しかし、香りを他の人に伝える時には「フルーティな香り」「芳醇な香り」といった具合に、主観的な表現に頼らざるを得ない。そのような表現での説明を聞いても、香りを正確にイメージするのは難しい。香りを、誰もがわかる形で表現する方法はないのだろうか。この記事では、香りの客観的な表現に挑戦する技術を取り上げよう。

香りは電光掲示板のようなもの?

 香りを客観的に表現するためには、まず香りの正体をつかんでおきたいところだ。

 味や香りを生み出す大元とは、食品中に含まれる成分である。ワインには数百〜数千種類の成分が含まれていると言われている。私たちはそれらの成分を舌や鼻で感じることで、ワインの味や香りを認識している。

 舌や鼻には、成分を感知するセンサーである「受容体」がある。人の舌には、甘味、旨味、塩味、酸味、苦味の5種類の受容体がある。一方で、人の鼻には400種類近くの受容体があると言われている。舌と比べると桁違いである。

 また、舌では、砂糖はグルコースによる甘味、コーヒーはカフェインによる苦味といった具合に、感覚と成分に1:1の対応関係がある。しかし、鼻ではそうではない。1つのフルーティな香り成分や、1つの芳醇な香り成分があるというよりは、複数の成分が総合してフルーティな香りや芳醇な香りを生み出しているのだ。

 例えるのであれば、電光掲示板のようなものである。縦20個、横20個、計400個のLEDでできた電光掲示板をイメージしてみよう。

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 400個のうちの特定の場所が同時に光る時、それは「あ」を示すことになる(図左)。また別の場所が同時に光る時、それは「い」を示すことになる(図右)。LEDの一部だけを見るのでは、何の文字が表示されているのかはわからない。全体を見てはじめて「あ」や「い」であると判断できる。これと同じように、香りの成分が鼻に届き、400種類のうちのいくつかの受容体が同時に反応するとき、その受容体全体の反応が「フルーティな香り」や「芳醇な香り」といった特定の香りを生み出すのだ。

 「フルーティ」「芳醇」といった表現は主観的ではあるが、ワイン中の特定の成分が、鼻の受容体によって感知されることは、客観的な事実である。つまり、ある香りに対する受容体全体の感知のパターン自体を測定することができれば、それは間接的に香りを測定できたことになるだろう。

香りを見えるようにする「嗅覚センサー」

 こうした考えに基づいて開発が進んでいるのが、嗅覚センサーである。鼻の受容体の代わりに、水晶やカーボンでできたセンサーを数百〜数万と並べ、嗅覚のしくみを再現しようとするものだ。センサーに使われる素材はいくつかの種類があり、それぞれ原理も異なるが、ここでは水晶でできた素材(「水晶振動子」と呼ぶ)を例に挙げてみよう。

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(※画像はデフォルメしたイメージです。)

 水晶には、電圧をかけると変形する性質がある。このため、水晶に、電流の向きが周期的に入れ替わる交流の電気を流すと、水晶は周期的に振動するようになる。この振動の周波数は一定となるが、水晶の表面に香りの成分がぶつかると、振動の周波数が変化する。こうした性質を利用して、香りの成分の種類による周波数の変化の違いを認識することで、それぞれの香りを識別することができるようになるのだ。

 一例として、水晶振動子を使った香りセンサーを開発している株式会社アロマビットは、香りの種類ごとの周波数の変化を目に見える形に変換して表現するサービスを提供されているようだ。ホームページでは、ブレンドコーヒー、カフェラテ、はちみつ入りカフェラテの3種類の香りの違いを視覚化された様子が例示されている。

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(画像:http://www.aromabit.com/ よりキャプチャ)

 嗅覚センサーの設計は複雑であり、技術的な課題も多く残されている。味覚を数値で表現する味覚センサーと比べて、食べ物の香りに特化した嗅覚センサーはまだ普及しているとは言えない。しかし、このように香りが目に見える形で表現できるようになれば、香りを客観的に伝えられるようになる。

 センサーの結果と、人の官能評価の結果を合わせれば、「○○な香りはこの見た目」というようなデータを集めていくこともできるだろう。また、一つの香りだけ見て判断するだけでなく、ワインやコーヒーのマッピングのようなものを作り、複数の商品の味を比較するときに便利かもしれない。香りを測定できるようになることは、私たちの食の楽しみの幅が増えていくことに繋がりそうだ。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
都甲潔, 中本高道『においと味を可視化する』(フレグランスジャーナル社, 2017年)

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