行列に並んで買った食べ物がおいしく感じる心理的なトリック
Read
TOP

 海外で流行りのスイーツが上陸したり、新しい専門店がオープンすると、お店に長蛇の列ができる様子をしばしば見かけます。数十分、ときには数時間と並ぶ人気のお店の多くは実際に味がおいしいですが、中には「評判の割には大したことがない」と感じるものもあるはずです。それでも行列が絶えないことがあるのはなぜでしょうか。もしかすると、行列に並ぶこと自体が、多くの人の脳をおいしく感じさせる方向に傾けているのかもしれません。

期待はずれでも「おいしかった」になりうる

 新しいスイーツを食べたときに、「おいしい」と感じ、その理由を「ふわふわした食感が新しかったから」などと説明することがあるでしょう。私たちは、自分の感覚や意思は完全に自発的なものだと思い、なぜそう感じているかについても理解しているつもりでいるものです。しかし、心理学の研究からは、必ずしもそうとは言えないことが明らかになってきました。

1)認知的不協和

 アメリカの心理学者フェスティンガーは、「自分の中に対立する2つの認知を同時に抱えてしまったとき、人はその対立をなくそうとする」という説を唱えました。

 説の発端は、1959年に発表された実験(*1)です。この実験では、実験参加者に、単調でつまらない作業を行ったあとで、それがいかに楽しい作業であったかを次の参加者に説明することが課せられました。その際、参加者は、1ドルの低い報酬をもらうグループと20ドルの高い報酬をもらうグループに分けられました。実験後に、実験が面白かったかどうかを尋ねたところ、低い報酬をもらったグループは、高い報酬をもらったグループよりも、実験の楽しさを高く評価したのです。「作業がつまらなかった」ことと「面白いと説明してしまった」ことの間に立たされた際、高い報酬では「仕事だから仕方ない」と考えて対立を解消できます。しかし、低い報酬はそのような正当化を行う動機にならないため「作業が楽しかったから実験に参加したのだ」と考えることで対立を解消したのだと考えられています。

 これを行列に並ぶことに照らし合わせると、「行列に並んだ」ことと「おいしくなかった」ことは対立関係にあります。しかし、行列に並んだという行動は変えられません。そこで商品への評価を「期待とは少し違ったが、それなりにおいしかった」などと解釈し直すことで、対立を解消しようとします。その結果、商品への評価が肯定的なものに変えられてしまう可能性があるのです。

2)入会儀礼効果

 あなたは行列に並ぶこと自体は好きでしょうか。1時間、2時間とひたすらに待ち続けることは、多くの人にとって、どちらかといえば苦痛なのではないでしょうか。しかし、その苦痛さこそが、おいしさの認知を変えている可能性があるのです。

 アメリカの心理学者アロンソンとミルズが1959年に行った実験(*2)では、性に関する討論会と称して、女子大生の参加を募りました。その際、参加の条件は3つに分けられ、1つ目のグループでは申請とともにすぐに入会でき、2つ目のグループでは面接で卑猥な単語を読まされてから入会が許可され、3つ目のグループではわいせつな小説を音読させられてから入会が許可されるというものでした。しかし、実際の討論会の内容は、動物の生殖に関するもので、とても退屈なものでした。討論会終了後に、すべての条件の参加者に討論会の評価をさせたところ、最も厳しい3つ目の条件をクリアして入会が許可された参加者は、他の参加者よりも優位に討論会が有意義で、参加メンバーが魅力的だったと評価したのです。

 何かと関わるときに厳しいハードルをクリアするプロセスを経ることで、その対象への評価が高くなったり好意が増幅したりすることは、「入会儀礼効果」として知られています。これは先に述べた認知的不協和の是正の一つだと考えられています。これにより、商品の質がそれほどでなくても、行列に並ぶという苦行を経て手に入れた商品を「おいしかった」と高評価する方向に認知が歪んでしまうことも起こりうるのです。

3)同調効果

 自宅や行きつけのレストランで食事をするときには舌に絶対の自信がある人も、行列店では軸がブレてしまうかもしれません。

 ポーランド出身の心理学者アッシュは、複数人から成るグループに、線分が描かれた2枚のカードを見せ、左側の線分と同じ線分を右側から選び、順に回答させる実験を行いました(*3)。

スクリーンショット 2017-07-14 11.01.28

(画像:SE.Asch. Opinions and Social Pressure (1955)より)

 答えは一目瞭然で2ですが、このグループには仕掛けがありました。本当の実験参加者は一人で、他のメンバーはすべてサクラだったのです。本当の実験参加者が回答するのは最後から2番目になるように回答の順番が決められており、その前のサクラの参加者はすべて「1だ」と間違った答えを述べるように仕組んでありました。すると、一人であれば一目瞭然だったにも関わらず、つられて「1だ」と誤って答える割合が増えたのです。誤って回答するサクラの数が7人のときに最も間違える割合が高くなり、37.1%の参加者が、間違った答えを述べるようになりました。

 このことは、皆が美味しいと述べていて、口が裂けてもまずいとは言い難いような雰囲気である場合、自分自身の考えも「おいしいのかも」と変容してしまう可能性があることを示しています。同調効果によって、おいしくないと感じていた人が減り、おいしいと感じた人が増え、結果としてお店の良い評判が維持される、ということもあり得るのです。

 もちろん、こうした現象がすべての人に必ず起こりうるとは言えません。ときには、認知が歪められることなく素直に「行列に並んだのに失敗した〜!ショック!」と思うこともあるでしょう。しかし、この記事で挙げた現象は多くの人に共通して起こりうることは確かなようです。しかも残念ながら、認知の歪みはなかなか自覚できるものでもありません。自分は「この店は美味しくなかった!断固としておいしくないぞ!」と正当に評価しても、レビューサイトではなぜか評判が良い…というような場合は、お客さんを全体としてみたときに、こうした認知の歪みが発生していることが理由なのかもしれません。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 Cognitive consequences of forced compliance. 
*2 The effect of severity of initiation on liking for a group.
*3 Opinions and Social Pressure 

TOP

RANKING

FEATURE