食べ物にハマる・やみつきになる脳のしくみ
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 「マヨラー」「パクチニスト」といった人々がいるように、私たちは特定の食べ物を強烈に好きになり、ハマってしまうことがある。こうした”やみつき”の現象は、どのように引き起こされるのだろうか。なぜ、ハマる食べ物と、そうでない食べ物があるのだろうか。

 やみつき状態を作っているのは、私たちの脳である。この記事では、これまでの研究で明らかになっている、やみつきを生み出すしくみを紹介しよう。

やみつきを生み出す脳回路

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 たとえば、パクチーを口にした時には、まずパクチーに含まれる味の成分が舌の上で感知される。パクチーの味の情報は、いくつかの経路を経て、脳の「第一次味覚野」という部分まで届く。第一次味覚野は、味の性質や強さを識別する部位である。その情報は次に、香りや食感なども含めた全体の情報を統合して”これはパクチーだ”と認識する「第二次味覚野」に届くルートと、動物的な本能的な快不快の感知にかかわる「扁桃体」に届くルートに分かれる。

(1)第一段階:おいしさを堪能する

nou2  最初の段階は、パクチーのおいしさを堪能する段階である。

 パクチーをおいしいと思うかは個人の食経験や遺伝的要素によるが、ここでは、運良く「おいしい」と感じる人の場合を想定しよう。第一次味覚野から2つのルートに入ると、パクチーの味に対して「おいしい」「快である」といった判断がなされる。そして、パクチーがおいしいものだと判断されると「βエンドルフィン」という物質が分泌される。βエンドルフィンとは、手術時の鎮痛剤として使われるモルヒネに似た物質で、痛みを和らげたり幸福感を生み出す働きがある物質だ。おいしさによる快楽が大きいほどβエンドルフィンの分泌は増えるようである。

(2)第二段階:もっと食べたくなる

nou3 次の段階は、パクチーをもっと食べたい気持ちが生じている段階である。

 パクチーが「おいしい」「快である」と判断され、βエンドルフィンが分泌されると、扁桃体からの情報はさらに「報酬系」と呼ばれる一連の領域に届く。報酬系は、物事に対する動機付けに関する部位である。「○○をすれば快を得られるだろう」という期待が生じた時に活発に働き、「ドーパミン」と呼ばれる物質が分泌される。その結果、その快を得る行動を取るためのモチベーションが上がる。おいしさの情報が届いた場合は、ドーパミンの分泌によって、もっと食べたい気持ちが引き起こされる。また、βエンドルフィン自体がドーパミンの分泌を促進する働きがあるとも言われている。

(3)第三段階:食べ続けてしまう

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 最後の段階は、結果として食べる手が止まらなくなる段階である。

 ドーパミンが分泌され、食べたい気持ちが引き起こると、その情報は次に、「視床下部」と呼ばれる部位にある「摂食中枢」を刺激する。この部位は、食べる行動を引き起こす部位である。摂食中枢が活発になると、「オレキシン」や「MHC」といった、摂食行動を促すいくつかの物質が分泌される。これにより、私たちはパクチーを箸でつまみ、口に運び、咀嚼するといった、もっと食べる行動を取ってしまうのだ。これは、血糖値の上昇や胃腸のふくらみといった満腹を示すシグナルが脳に届き、満腹感を感じられるまで続くことになる。

(4)強化段階:食べる量や回数が増えていく

 マヨラーやパクチニストでない人からすると、「マヨネーズを大量にかける」や「パクチー増し増し」といった行為は、少し過剰なようにも見えるかもしれない。しかし、ハマると次第に量が増えていくのは、脳のしくみ上、仕方のない現象なのだ。

 体には、一定の平常状態を保とうとする働きがある。ドーパミンの大量の分泌と、それに伴う神経伝達は、平常よりも強烈な刺激である。そこで、神経は、ドーパミンの信号を受け取る能力を低下させることで、なるべく刺激を平常な強さに直そうとする(専門的に言うと、ドーパミンを受け取る「受容体」の数が減る)。ドーパミン受け取りの能力が低下すると、以前と同じ量のパクチーやマヨネーズでは、”あの時の満足感”を得ることができなくなる。そこで食べる量を増やして、パクチーやマヨネーズの味の強度を強めることで、以前と同じ強さのドーパミンの信号を出そうとする。これが、徐々に食べる量が増えてしまうしくみだと考えられている。

ハマりやすい食べ物

 それでは次に、どのような食べ物がハマりやすいかを見てみよう。

(1)生得的に好きな成分が含まれているもの

 脂肪たっぷりの家系のラーメンや、高カロリーなスイーツなど、健康を気にする人にとっては控えたいような食べ物ほど、おいしくて魅力的なことがある。私たちは、脂肪や糖分を生得的に好むように生得的にプログラムされている。

 今では食べ過ぎは問題となりえるが、食料の少ない時代には、なるべく多く食べて活動のエネルギーを得ることが必須であった。脂質や糖分はエネルギー源であり、多く食べれば貯蔵することもできる。そこで、脂質や糖分を「快」と感じるように進化することで、エネルギー源となる食べ物を食べる行為を促され、生存に有利となったのだ。このため、油っぽいものや甘いものは、βエンドルフィンが分泌されやすく、やみつきの状態を生みやすいと言える。

(2)脳に直接作用する物質が含まれているもの

 お酒に含まれるアルコールや、コーヒーに含まれるカフェインといった成分は、それ自体が神経に作用して、神経伝達を変える働きがある。先に述べたように、ある神経伝達では、回数を重ねるごとに、神経の信号を受け取る能力が低下してゆく(受容体が減っていく)傾向がある。

 このため、お酒による気分の良さや、コーヒーによる目覚めのような、感覚的な変容を期待して特定の食べ物や飲み物にハマるような場合は、徐々にその効果が薄れてゆくがゆえに、「もっともっと」となり量が増えていく可能性があると言える。アルコールやカフェインは有名だが、植物には数多くの成分が含まれているため、植物由来の食べ物の中には、まだ認知されていない同様の成分を含むものがあるかもしれない。

(3)ギャップがあるもの・個性が強いもの

 好きなことは一発で覚えられるのに、さほど興味のないことは何度覚えても忘れてしまう、といった経験をしたことはないだろうか。この現象は、好きという感情が記憶の定着を強固にするためだと言われている。このように人の脳は、喜怒哀楽が伴う物事ほど覚えやすいようだ。 

 また、人は、未来の行動をよりよくするために、過去の経験から学習する。学習によって、過去に行動Aをしたら良いことがあったから、今後も行動Aを増やすという場合がある。ここで、学習に際して過去の経験を参照するということは、過去の経験を覚えているということを意味する。

 この記憶と学習の面から、ギャップのあるものや個性の強いものはやみつきになりやすい可能性を秘めていると言える。「とてもクセのある味」「見た目は強烈なのに意外と美味しい」といった強い印象は、それに伴う喜怒哀楽を強める傾向があるだろう。結果、記憶に残りやすくなる。そして、その記憶が快を伴うものであれば、それを食べる行動は強化されていき、何度も食べる行動に繋がる可能性が高くなるだろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
おいしさと食行動における脳内物質の役割
おいしさからやみつきに至る脳内プロセス
嗜好と嗜癖の神経科学

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