言葉でシズル!「オノマトペ」からおいしさをイメージしやすいのはなぜか
Read
TOP

 食べ物の広告に使われている言葉は、見聞きするだけでおいしそうなイメージを引き起こす。たとえば、「濃厚」「焼きたて」「サクサク」といった言葉で表現されるチーズタルトは、たとえ実物を見たことがなくても、その言葉を耳にしただけで、なぜかおいしそうに感じてしまうのではないだろうか。

 食べ物をおいしそうに表現する言葉(いわゆる”シズルワード”)の中でも、「サクサク」「もちもち」などのオノマトペと呼ばれる言葉は、不思議な存在だ。それがどのような状態を示しているのかは抽象的なままであるにも関わらず、年齢を問わず多くの人が 似たようなイメージを抱くからである。オノマトペを見聞きした時、私たちには何が起きているのだろうか。

オノマトペは「言語野」では理解されない?

 「右脳型・左脳型」という俗説が広く知られているように、脳では、場所ごとに情報処理の役割分担が行なわれている。たとえば、味の判断に関わる部位は「味覚野」、香りの判断に関わる部位は「嗅覚野」として知られている。

 言葉を話したり理解することを専門とする部位についても明らかになっている。言葉を話すことに関わる部位は「ブローカ野」、言葉を理解することに関わる部位は「ウェルニッケ野」として知られている。また、ブローカ野やウェルニッケ野は左半球にある人が大半であるようだ。

nou

 通常のコミュニケーション時や、広告や読書で言葉を見聞きした時には、ウェルニッケ野が活発になって言葉の理解が行われるとされている。しかし、オノマトペを見聞きしたときに活発になる理解する部分は、なんとウェルニッケ野ではないようなのだ。

オノマトペは”動物の鳴き声”に似ている

 オノマトペは他の言葉と何が違うのだろうか。玉川大学脳科学研究所と慶應義塾大学の研究者らは、オノマトペを見聞きしている時に脳のどの部分が活発に働いているかを調べるために、2つの実験を行った。

sc1

(画像:How Sound Symbolism Is Processed in the Brain: A Study on Japanese Mimetic Wordsより)

 最初の実験ではまず、人が左から右に歩行していく映像とともに「よたよた」「すたすた」といったオノマトペか、「あるく」「すばやく」といった動詞または副詞が表示されたものが使われた。これらを被験者に見せ、映像と言葉の一致度を5段階で評価させた。

 この時の脳の活動を「fMRI」という装置を使って調べたところ、オノマトペが表示された時には、脳の右半球の「上側頭溝後部」と呼ばれる部位が活発に働いていることがわかった。特に、映像とオノマトペの一致度が高い時により活発であった。

 次の実験では、これが「人の動き」ことに限られた話でないことを示すために、「ギザギザ」といった形に関するオノマトペと、形の映像を見せ、その一致度を答えてもらった。このときも、右半球の上側頭溝後部が活発に働いてることがわかった。

 この2つの実験から、オノマトペを処理する部位は、右半球の上側頭溝後部なのではないかと考えられた。これは左半球にあるウェルニッケ野とは異なる位置である。

nou2

 上側頭溝後部は、これまでの研究から、カラスの「カーカー」などの動物の鳴き声を示す言葉に強く反応する部位であることが知られていた。今回の結果と合わせると、オノマトペは言葉と音の中間的存在である可能性が高いのだそうだ。人が言語を獲得する前の原始の言語には、こうした言語と音の中間的な言葉が用いられていたとも言われている。すなわち、オノマトペは、より人間の非言語的・直感的な認知に関係があると考えられるのだ。

非言語情報はすばやいルートで処理される

 オノマトペは脳で非言語的なものとして処理される。このことは、オノマトペからおいしそうな印象をなぜか感じ取ってしまう理由になると考えられる。

 人が情報処理をする時には2つの様式があるとする「二重仮説理論」という考え方がある。2つとは、直感的・情動的ですばやく自動的に行われる「システム1」と、論理的・理性的で時間がかかり熟慮を要する「システム2」だ

 通常の言葉の意味を理解する処理は、システム1とシステム2、どちらで行われると思うだろうか。たとえば「り・ん・ご」という音の響き自体や文字の形自体に対して無意識的に形成される印象は、システム1によるものと言えるかもしれない。しかし、「りんご」というものが何を指すのか、その概念を理解するためには「赤くて丸い果物」というように、言葉を使って理解しなければならない。これは理性的な情報処理ではないだろうか。言葉の意味を理解するといった、言語的な思考を行う時にはときには、システム2が使われると考えられる。

 しかし、非言語的存在であるオノマトペはどうだろうか。言語になりきらないオノマトペは、理性的なシステム2で処理するのは難しいように思われる。結果、オノマトペはシステム1で処理され、これが、オノマトペから即座においしさを想起し、さらにその質感のようなものを非言語的に理解できることに繋がっているのではないだろうか。

 また、言葉で厳密に表現しすぎるとかえって対象の想起が困難になる「言語隠蔽効果」と呼ばれる現象が知られている。これは人の顔などの印象を言葉にして記憶する際に起きる現象だが、逆パターン、すなわち言葉から印象を思い出す時にも、言葉によって想起が限定的になる可能性もあるのかもしれない。

 以上のようなことが、オノマトペがシズりやすい理由なのかもしれない。「空気をたっぷり含んだスポンジ生地」というような文章表現よりも「ふわふわ」といった言葉で示す方が、システム1を介すことでよりすばやく、より全体の印象を伝えることができるのではないだろうか。この節で書いたことはあくまで筆者の考えであり、本当にそうであるかを確かめた研究はまだない。今後のオノマトペ研究の発展に伴い、オノマトペがなぜシズるのかがさらに明らかになっていくことだろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
How Sound Symbolism Is Processed in the Brain: A Study on Japanese Mimetic Words

【食の脳科学の関連記事】

食べ物にハマる・やみつきになる脳のしくみ

商品開発時に要注意──試食テストのやり方次第で味の好みは変化する

シズるを左右する?食欲がわく照明・わかない照明

Follow Me!

新着記事の更新情報をお知らせします!

Twitter:@BAKE_OPENLAB
Facebook:BAKE OPENLAB

TOP

RANKING

FEATURE