「溶けないアイス」の原理・仕組みを科学的に解説
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 気温の高い夏のアイスは、少しでも油断していると、すぐにポタポタと溶け始めてしまう。あなたにも、360度満遍ない位置からスプーンですくったり、溶け始めた部分をなめて無かったことにしたり、様々な工夫を凝らしてなんとか溶けるのを阻止しながらアイスを食べた経験があるだろう。

 ところが、近年、そうした格闘を不要とする「溶けないアイス」が、国内外で姿を見せはじめたようだ。溶けないアイスとはどのように作られているのか、その科学的な原理を考えながら解説した。

アイスが溶けるとはどういうことか

 「溶けないアイス」を知る前に、まずはアイスが溶けるとはどのような現象なのかを理解しておこう。

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 アイスは主に3つの要素で成り立っている。気泡、乳脂肪、氷の結晶だ。気泡の周りに、凝集した乳脂肪がくっついたものと、氷の結晶が、牛乳のタンパク質や砂糖が溶けた液体中に分散している状態になっていると考えられている。こうした構造が維持されている限りは、アイスは形状を保つことができる。

 しかし、周囲の気温が高いと、その熱が伝わり、融点の低い(0℃)氷がまず溶け出す。氷の体積は水の体積の1.1倍なので、氷が溶けると体積が減少し、空間に隙間ができる。すると、アイスの構造が崩れてくる。さらに、空気よりも水の方が熱を伝えるのが早いため、周囲にある乳脂肪や気泡にも熱が伝わりやすくなる。熱が伝わると流動性が高くなり、気泡の構造を保つのが困難になり、アイスは完全な液体へ変わっていく。これがアイスが溶けるという現象である。

 これより、アイスを溶かさないようにする上で大切なのは、氷が溶けることによる影響を止める!ということになる。今から列挙する「溶けないアイス」たちは、この役割を担っているといえるだろう。

溶けにくいアイスを作る5つの技術

◎食品添加物を使う

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(画像:https://www.walmart.com/c/kp/ice-cream-sandwiches よりキャプチャ)

 アメリカのスーパーマーケット「ウォルマート」が販売するアイスクリームサンドは、27度の屋外で12時間放置しても溶けなかったことが話題となった。こちらのアイスクリームは、「グアーガム」「硫酸カルシウム」といった成分の量を工夫することで、溶けないようになっていると考えられている。

 グアーガムとは、糖が長く繋がったものだ。グアーガムがアイスの原料に混ぜられることで、グアーガムのかさばりによってアイスの原料全体が動きにくくなる(粘度が上がる)。また、牛乳中のタンパク質はマイナスの電気を帯びている傾向にあるため、硫酸カルシウムが加えられることで、タンパク質とプラスの電気を帯びたカルシウムが合わさって固まっていく。このような添加物の使用によってアイスの原料全体の流動性が下げられることで、溶けないアイスに仕上がっているのではないかと思われる。



イチゴに含まれる成分を使う

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(画像:金座和アイスHP http://ice.biotherapy.co.jp/ よりキャプチャ)

 今最も話題の溶けないアイスといえば、金沢大学の太田富久教授らのチームが開発した「金座和アイス」ではないだろうか。こちらは研究チームが発見した「イチゴポリフェノール」という成分を用いることで、常温で3時間放置しても形状を保っていられるアイスとなっているようだ。

 このイチゴポリフェノールをアイスの凍結前に加えると、イチゴポリフェノールの働きで、水分や気泡が乳脂肪に囲まれる状態になるようである。脂肪球に囲まれた状態で氷になることで、氷が溶けても水が出してこないために、構造の崩壊が免れ、アイスの形状が維持されるのだそうだ(*1)。

 

◎おからと米粉を使う

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(画像:溶けにくいソフトクリームHP http://www.japan-sfl.com/soft.html よりキャプチャ)

 実は、金沢には溶けないアイスがもう1つある。日本海藻食品研究所が開発した「溶けにくいソフトクリーム」だ。こちらは常温で40分放置しても溶けないことが示されている。鍵となる原材料は、独自配合のおからと米粉である。

 おからには食物繊維が、米粉には「アミロペクチン」と呼ばれるのり状になる成分が含まれている。これらをアイスの原料と混ぜ合わせることで、アイスの水分は網目のような複雑な構造の中で存在するようになると予想される。こうした複雑な構造に囲まれているがために、温度が上がっても水分が流れ出しにくいのではないかと考えられる(特許の内容(*2)以上のことは明らかにされていないので、あくまで筆者の予測となる)。

 

◎くずを使う

kuzu(画像:京都・本くず氷本舗HP http://honkuzu.kyoto.jp/ よりキャプチャ)

 さらに、日本らしい食材であるくずを使って溶けにくいアイスを作る方法がある。くずを使ったアイスは、京都の本くず氷本舗や、静岡の桜屋のオオギマーク役場前店などで販売されているようだ。

 くずの主成分はでんぷんであり、糖が鎖のように繋がった構造をしている。でんぷんは水分と共に加熱することで、鎖の隙間に水分が含まれたゲルのような構造を持つようになる「糊化」という現象が起こる。糊化は通常、温度が低下してくると鎖の隙間から水分が離れて元に戻ってしまうが(老化)、糊化した状態から急速に冷凍することで、糊化によるゲル状態を維持することができる。おそらくこのようなでんぷんの性質を利用して、アイスの成分をゲル中に保持して溶けにくくしているのが、くずアイスだと思われる。

 

◎納豆由来のタンパク質を使う

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 最後は、イギリスの研究者によって発見された成分である。エジンバラ大学とダンディー大学の研究者らは、微生物が作るヌメり成分に含まれる「BsIA」というタンパク質が、アイスを溶けにくくするのに役に立つことを発見した。

 BsIAは、納豆のネバネバにも含まれる成分である。この成分は、乳脂肪と空気をくっつけて安定させる働きを持っているようだ。また氷の結晶のプロセスにも影響して、より口当たりの良い氷にすることにも関係するようである。この成分が含まれるアイスはまだ市場に出回っていないが、新たな泡の安定剤や乳化剤として食品業界から期待されているようだ。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考
*1 溶けないアイスの仕組みはどうなっているの? - 金沢大学の名誉教授に聞いてみた
*2 氷菓子および氷菓子原料
*3 Slower melting ice cream in pipeline, thanks to new ingredient

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