「Bean to Bar」チョコレートの科学(1)理論編
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 カカオ豆からチョコレートになるまでの全工程をこだわって作る「Bean to Bar」のチョコレート。厳選したカカオ豆を、コーヒーのように焙煎し、粉々に砕き、溶かしていくと、なめらかでツヤのあるチョコレートに変化していく。噛み切れないほど硬かったカカオ豆が、なぜとろけるチョコレートに変化していくのだろうか。Bean to Barの工程を通じて、チョコレートができるまでのカカオ豆の化学変化を追ってみよう。

Bean to Barのプロセス

1.カカオ豆を入手:発酵と酵素反応

 まずは原料となるカカオ豆を入手する。カカオ豆は、カカオの実(カカオポット)の中で、パルプと呼ばれる果肉が周りについた状態で存在している。つまり、カカオ豆は種子である。一つのカカオの実から、40個近くのカカオ豆が取れるようだ。

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(写真提供:Dari K株式会社)

 カカオの実から、パルプが付着した状態でカカオ豆を取り出し、バナナの葉で包んだり木箱に入れたりして一週間程度発酵させる。カカオ豆には、酵母菌や酢酸菌などの、発酵食品によく使われている菌がいることがわかっている(*1)。酵母菌が糖分をアルコールにしたり、酢酸菌がアルコールを酢酸にしたりするなど、菌たちの発酵によってさまざまな反応が起きることで、風味の元が作られるのだ(*2)。

 また、カカオ豆自身が持つ酵素によって、タンニンなどの渋み成分、カフェインやテオブロミンなど苦味の元となる成分が変化する(*3)。こうした過程を経ることで、風味を悪くする成分が除去され、カカオ特有の風味が生まれていく。

 その後、天日干しで水分が6%以下になるまで乾燥させる。乾燥させることで、酵素や微生物の働きが止まる。市販のカカオ豆は、こうした発酵や酵素反応を終了させるところまで行ってから、出荷されている。

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 自分でBean to Barに挑戦する場合、さすがにカカオの実からもぎ取ってくるのは難しいので、すでに実から採取されてこのように処理されたカカオ豆をゲットしよう。

2.カカオ豆を焙煎:風味成分が発生

 処理されたカカオ豆を入手したら、まず表面についている汚れを取るために軽く洗った後に、焙煎する。

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 焙煎することで、ポリフェノール類が分解されてさらにカカオらしい香りがでてくる(*4)。また、メイラード反応と呼ばれる反応によってさらに様々な成分が作られるほか、茶色も深まってくる(*5)。これらの過程はカカオの風味を引き出す上で重要と考えられているが、研究者もまだその全容をを解明できていないほど非常に複雑だ。チョコレートは水分が入るとうまくなめらかにならないため、水分はしっかりとばす。

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(写真提供:Dari K株式会社)

3.皮を剥いて細かく砕く:組織の破壊

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 焙煎で水分を十分に飛ばしたら、次は皮を剥いて細かく砕いていく。自宅で行う場合ははすり鉢で砕くのが現実的だが、結構根気がいる作業だ。カカオ豆を細かくしていくと、油分が表に出てきてつややかでしっとりした見た目になってくる。カカオ豆にはオレイン酸やパルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪分が含まれているので(*6)、すり潰されて組織が破壊されていくことで、それらが溶け出してくるのだ。土のようにしっとりした艶やかなテクスチャーになってきたらOKだ。

4.湯煎をしてさらに練る:舌触りを変える

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 次に湯煎をしながら溶かし、練っていく。カカオに含まれる脂肪分は30度付近で流動するようになるので、この工程では粒子として固まっていたものも溶け出して、全体が混ざっていく。この時も水が入らないように注意が必要だ。

 この作業を行うことで分子が細かくなり、人の舌が感知できるより小さなサイズとなって食感がよくなる。また、不要な香りを飛ばして風味をよくすることもできる(*7,8)。このように練り続ける作業をコンチングといい、長いものだと72時間行う場合もある。コンチング時間が短い場合でも、粗挽きでザラっとした、bean to barらしいチョコレートに仕上げることができる。

5.舌触りを調節:結晶の形を整える

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 チョコレートの食感を左右する成分は、油脂である。チョコレートに含まれる油脂の分子は、6種類の並び方をすることができる。このうち、なめらかな食感となるのは「5型」と呼ばれる並び方をした時だけである。それ以外の並び方では、ボソボソしてしまったり、口どけが悪かったりして、食感を損ねてしまうのだ。

 そのため、チョコレート作りの仕上げには、テンパリングという温度調整の作業を行う。一度チョコレートを40度以上で溶かした後、27度ぐらいまでゆっくり冷却していく。そしてもう一度30度ぐらいにあげることで、油脂が5型の並び方となり、滑らかな舌触りが生まれるのだ(*9)。

 こうしたプロセスを経て、無事カカオ豆からチョコレートができあがる。チョコレート作りにはさまざまな化学変化が関係していることが、おわかりいただけただろうか。続編の「実践編」では、実際にbean to bar作りに挑戦している。

 本稿の執筆にあたり、原稿の科学的整合性を丁寧にご検討くださった宮城大学の菰田俊一先生、写真をご提供くださったDari K株式会社に深く御礼申し上げます。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

 

*参考文献
(*1)Microflora of raw cacao bean
(*2)The Microbiology of Cocoa Fermentation and its Role in Chocolate Quality
(*3)Fermentation of cocoa beans: influence of microbial activities and polyphenol concentrations on the flavour of chocolate
(*4)Roasting effects on phenolic content and free-radical scavenging activities of pulp preconditioned and fermented cocoa (Theobroma cacao) beans
(*5)Effect of Roasting Process on the Concentration of Acrylamide and Pyrizines in Roasted Cocoa Beans from Different Origins 
(*6)Review of cocoa butter and alternative fats for use in chocolate—Part A. Compositional data
(*7)Understanding the impact of conching on chocolate flavour using a combination of instrumental flavour analysis and tasting techniques
(*8)Use of Gas Chromatography−Olfactometry To Identify Key Odorant Compounds in Dark Chocolate. Comparison of Samples before and after Conching
(*9)チョコレートを美味しくする物理

Cooperator

komoda_photo (1) 菰田俊一

 菰田俊一(こもだとしかず)。宮城大学食産業学部准教授。専門分野は応用微生物学、食品有機化学、食品衛生学。血圧調整や食物アレルギーに関連する成分など、食品中の健康成分に関連する研究を進めており、中でもチョコレートに含まれる成分に着目。食品衛生やHACCPシステムに関する講演会や、手作りチョコレートの出張講習会の講師も務める。出張講習会の依頼は随時受け付け中!

◎宮城大学の教員紹介ページ:http://www.myu.ac.jp/teacher/syokusan-teacher/komoda


宮城大学チョコレート研究会

 宮城大学チョコレート研究会。宮城大学太白キャンパスを拠点に活動する研究会。菰田俊一先生が顧問を務める(2017年1月現在)。チョコレートの機能性やレシピを研究している。オープンキャンパスでは、Bean to Barワークショップも開催。

◎ブログ:宮城大学チョコレート研究会
◎Twitter:@cha_ri0510

 

 

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