「おいしさ」から「体験」へ。パンクなガストロノミーシェフが考える”これからの美食”とは。
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 時に科学的手法をも取り入れながら、まだ見ぬ美味しさを追求する美食の世界。美食は、フレンチに代表されるように敷居が高いイメージがあるが、東京・代沢に佇む「Salmon&Trout」は一味違う。ぱっと見でレストランだと判別しにくい外観に、ガレージのような内装。一歩足を踏み入れれば、気さくな雰囲気の森枝シェフが出迎えてくれる。すっかりラフな気分で構えていると、味に対する真摯な姿勢と確かな感動が内包された料理の数々が、私たちの度肝を抜きにくる。

 どこまでも異彩を放つこのレストランは、そしてオーナーである森枝シェフは、一体何者なのか。豊富な経験と強い信念に裏打ちされた、実力派ガストロノミーシェフの創造力の源に迫ってみた。

ラフな雰囲気と本気な味のギャップ

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 Salmon&Trout(サーモンアンドトラウト)は、東京・世田谷区代沢にあるレストランだ。自転車屋も兼ねているようで、お店の外にはオシャレな自転車がディスプレイされている。地元民ですらレストランだと認識してない人も多いであろう、トリッキーな佇まいである。

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 拭いきれない困惑と共に扉を開けば、ウッディで無機質なほの暗い空間が出迎えてくれる。バーカウンターがあることから間違いなくレストランであることを理解するものの、美食といえば白一色のおフレンチ、のような先入観があると、北極から南極に突き飛ばされるような気分になるだろう。

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 お店を切り盛りするのは、森枝幹(もりえだ・かん)シェフ。森枝シェフのほかには、4人ほどのスタッフが働いている。スタッフも、音楽家兼ソムリエな方や、本職はパントマイマーな方など、個性派揃いだ。

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 メニューはコース1種類のみ。使われている食材は、森枝シェフ自らが国内外に足を運んで厳選したものや、知り合いから直ルートで入手したもので、季節や時期によってその都度変わる。

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 食器や盛り付けも目を引き、口に含めば感動が一気に広がる。ナイフアンドフォークではなく箸で食べるスタイルから、和食への愛情も垣間見える。他に類を見ないような独特の演出が10品ほど続き、頬は落下に落下を重ね、すっかりどこかへ消えている。

おいしさよりも、経験を追求する

 ギャップとサプライズに満ち溢れているSalmon&Trout。好奇心旺盛な方が一度このレストランに出会ったら、この空間をどのように解釈すれば良いのか、気になって仕方なくなるだろう。森枝さんがどのような気持ちでお店作りをし、料理に向き合われているのかを、お尋ねしてみよう。

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このお店は、一体どのようなコンセプトなのでしょうか。

森枝時代に合わせて、使う食材そのものや、食材の意味というのは変わっていくと思っていて。そういう中で、今の時流や僕の考え方の中で、自然に、この食材使ってみたい!と思うものを集めていたら、今みたいなスタイルになっていました。珍しいものを使いたいというよりは、こういうのも面白いよね?みたいなものを集めています。自分としては、普通に割烹をやってるだけって感覚ですよ(笑)。

森枝さんの料理では、食材のウェイトが大きいのですね。

森枝料理を考えるときは、食材をベースに考えることが多いですね。これとこれを使ったらどうなるだろう?とか。食材からインスピレーションを得て、何を表現したいかが決まっていきますね。

SNSを拝見していると、食材はご自身で探しに行かれているようですが…

森枝いろんな国や文化の中で、その食材がどんな風に使われているか知りたいという想いもあって、自分で探しに行ってみることが多いです。シェフはどんなこと考えてるのかな、この食材はどんな意味を持つのかなって。いろんな価値観を知ることは、時代を読むことにも繋がると思っています。

料理の美味しさを生み出す上で大切なことはなんでしょうか。

森枝味のバランスや、提供の流れじゃないですかね。和食みたいのが出たあとに急にフレンチっぽいのが出てきても、心地良く感じないじゃないですか。あと、最近思うのは、もはや一番大事なのは、美味しさではないんじゃないかってことです。

おいしさは大事じゃない…んですか!?

森枝もちろん大切ですが、この世で一番美味しいものを作るために競い合うのは、ちょっと違うのかなって。それよりも、食べた時に、何を感じ、考え、思い出すか。そういった体験のほうが重要だと思ってます。たとえば、土を使った料理があったとする。たとえそれが少し奇抜な味だったとしても、幼いころに外で遊んだときの記憶が蘇ってきたりすると、面白いんじゃないかって。

食べる人がどんな経験をするかを想像しながら、料理を作られてるんですね。

森枝こんな風に感じてくれたら面白いなっていう、僕なりの狙いはあります。ただ、もちろん人によって過去の経験に差があるので、感じ方は人それぞれです。だから、お客さんには、料理のことをあまり説明しすぎないようにはしていますね。低温で何時間煮込んで〜みたいな作り手の意図よりも、食べてその人が何を感じるかというのが、一番大事だと思います。

美味しいものを作ることを前提としてこなせるからこそ、出てくる発想なのでしょうね!

料理を通じて「物事を考える人」を増やしたい

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森枝さんは分子調理のお店で修行されていた時期がおありですが、料理に科学的な要素を取り入れることもあるのでしょうか。

森枝確かに分子調理の登場によって、表現できる幅は広がりました。何を表現したいか?の先に、できるだけ薄い膜を作りたい!みたいのがあれば、使うこともありますよ。でもそれはあくまで手段であって、分子調理の手法を使うこと自体が目的になってしまうのはちょっと違うかなと思います。僕の場合は、まず何を作りたいのかが先にありますね。

料理の進化にとって、科学とはどういう存在ですか。

森枝料理はすべて化学変化なので、何を科学とするかは分かりませんが、真空にしたり、一定の温度と時間で調理してくれたりする機械は役に立つと思います。物質の変化を安定させる、均一化させるなど、人間の手で出来ないことをスムーズにやれるようサポートしてくれたり、そうするためのロジックを解き明かしたりするのが、科学じゃないですかね。あくまで、それを使うのは人間なのであって。まあ、AIが入ってきたらどうなるかは分かりませんが…AIが考えられないような料理を考えないといけないですよね。

AIが考えられない料理とはどんなものでしょうか。

森枝ゆらぎじゃないですかね。火だったら薪火だったり、ぴったり正確に55度で均一に通ってるわけじゃないものとか。部分的にちょっと焼き目が強かったり、外側も全部ガリガリじゃなくて一部そういうとこもあるみたいな、ブレですね。そうした味の凹凸は、おいしさに繋がると思いますし、機械学習では作りにくいんじゃないでしょうか。

今の美食(ガストロノミー)には、何かトレンドのようなものはありますか。

森枝日本と世界ではちょっと違います。でも全体として、地域に帰ってきてる印象があります。日本のシェフも、日本の食材を使いだす人が増えました。これまで、鴨といえばフランスのあの地方の鴨を使う、みたいのがあったけど、今は、日本のあん肝もいいよね、という感じになってきてます。ある意味トレンドですかね。

日本と世界で違うところは、どんなところですか。

森枝日本人全体で弱いのは、自分が考えていることを表現することがあまり得意じゃないところかなって思います。やっぱり先に技術が来ちゃっているというか。僕は技術は全然ないけれど、こうやって取材に来てもらえたりするのは、僕の気持ちや考えを行動に移しているからなのかなって。自分の強い思いを形に変える日本人は、あまり多くない気がしますね。

料理も自己表現の一つなんですね。それでいて、森枝さんのやりたいことは、お客さんに好まれやすいものと、あまりズレてないように見えるところが凄いですね。

森枝まさに、自分がやりたいことが時代にフィットした瞬間が、最高に気持ち良いですね!常に、今の自分が面白いと思うことをやりたいし、それがお客さんに刺さって、いろんなことを考えるきっかけになったらいいなと思うし、物事を深く考える人が増えてくれたらいいなと思っています。

 森枝さんは他にも、子供の頃の原体験などを幅広くお話をしてくださった。大人になるにつれ、諦めることも増えていく。そんな中、ご自身の信念を貫き、説得力のあるアウトプットをしながら、現状に挑み続ける森枝さんの姿には、どこか目が覚めるような感覚が引き起こされた。ただ美しいだけじゃない、森枝さんの作り出す最先端の美食を、Salmon&Troutで堪能しよう。

 本稿の執筆にあたり、インタビューおよび原稿のご校閲にご協力くださったSalmon&Troutシェフの森枝幹様に深く御礼申し上げます。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

SHOP INFOMATION

NAME Salmon&Trout(サーモンアンドトラウト)
URL https://www.facebook.com/salmonandtrout2014/
ADDRESS 〒155-0032 東京都世田谷区代沢4-42-7
TEL 080-4816-1831
OPEN 火曜日-土曜日, 18:00〜26:00
CLOSE 日曜日, 月曜日

※他、臨時休業する場合があります

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Morieda_photo 森枝幹

 森枝幹(もりえだ・かん)。辻料理師専門学校を卒業後、シドニーの和風フレンチレストラン「Tetsuya's」、表参道の割烹「湖月」、日本橋の分子調理レストラン「タパスモレキュラーバー」にて幅広く修行を重ねる。東日本大震災をきっかけに独立を決意。現在は、「Salmon&Trout」にてシェフを務めるほか、新宿のレモンサワー専門店「The OPEN BOOK」 をプロデュース。さらに、フードカルチャー&ライフスタイルマガジン「RiCE」の編集にも携わり、常に型にハマらない発信に挑戦している。

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