音でチョコレートがビターに!?「サウンド・シーズニング」で味が変わる
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 普段、飲食店で流れているBGMを気に留めることはあるだろうか。よほどの音楽好きでない限り、店内にどのような音楽が流れているかは気にならないかもしれない。しかし、たかがBGMと思われる音楽が、実は食体験を大きく左右することがある。音は、単にお店の雰囲気だけでなく、あなたが感じる味自体をも変化させる可能性を秘めているのだ。

 音が味に与える影響を調べた研究はいくつかあるが、今回は、ベルギーの研究者たちが行った、音がチョコレートの味を変えることを示した3つの実験を紹介する。

実験1:音+ストーリーが味と価値を変える

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(実際に使われたチョコBrasil http://www.thechocolateline.be/en/より)

 はじめの実験では、1つのチョコレートに対して、2種類の音刺激を使った実験が行われた。チョコレートはベルギーのショコラティエ「Dominique Persoone」の「Brasil」という商品で(美しい!)、これを4つのグループに食べてもらった。
 グループ1では、ブラジルのアーティストの曲(Jorge Benの"Vem Morena, Vem”)を、グループ2では、アンビエント調の曲をそれぞれ聴きながら食べてもらった。なお、グループ1と2では事前に曲名が伏せられた状態で実験が行われた。
 グループ3では、グループ1と同じ曲で、あらかじめ「シェフはこの曲にインスピレーションを受けてこのチョコを作りました」という情報を与えてから食べてもらった。グループ4では、前出しする情報を「この曲はチョコレートの味を変える効果があるとして科学者に選ばれた」と変えて食べてもらった。

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 その結果、音を聴きながら食べてもらったほうがチョコレートへの好感度が10〜20%ほどアップした。また、このチョコレートに対していくら払うか?という質問も、音体験が付随している場合のほうが高くなる傾向にあった。好感度、価格ともに一番上がったのは、グループ3だった。シェフがインスピレーションを受けたというストーリーが、味の知覚および商品価値をより肯定的なものに変えたというのは注目に値する。

実験2:チョコレートを苦くするのはカカオだけじゃなかった

 次の実験では、3種類のチョコレートと、3種類の音刺激が用意された。チョコレートは、Dominique Persooneが作った、甘いチョコ、苦いチョコ、その中間のチョコの3種類。音刺激は、別の実験でも使われている、甘味をイメージした音、苦味をイメージした音、その中間をイメージした音の3種類を用意した。

 まず、それぞれのチョコと音を対応させる実験を行った。その結果、苦いチョコは苦味をイメージした音と結びつけられやすかった。言葉で説明することは難しいものの、この音刺激が、人々に苦い味を想起させる何かを持っていることが伺える。

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 次に、甘いチョコと苦いチョコをそれぞれ、3種類の音刺激を聴きながら食べてもらった。すると、苦いチョコにおいて、苦味をイメージした音を聞かせたときは苦味が強くなり、中間の音を聞かせた時には甘味が強くなる傾向にあった。これより、音刺激が本当にチョコレートの味に影響を与えることが明らかになった。音刺激をうまく使えば、カカオの割合によらず、チョコレートを苦くしたり甘くしたりすることもできるかもしれない。

実験3:音はチョコレートのなめらかさにも影響

 最後は、音を使って、チョコレートの味ではなく、なめらかさ・ザラザラ感を変化させる実験が行われた。これまでの研究で、咀嚼音が食感を変化させることがあることはわかっていたが、今回は、食事と関係のない音で同じような効果があるのかが調べられた。

 チョコレートは、カカオ71%のものと80%のものの2種類が用意された。音刺激は、なめらかさをイメージした音(フルートにリバーブをかけたような音)と、ザラザラ感をイメージした音(バイオリンの激しいピチカートのような音)の2種類が用意された。
 2種類のチョコに対して、2種類の音を聴きながら味を調べた結果、なめらかさをイメージした音はチョコのなめらかさと甘さを強くし、ザラザラ感をイメージした音は、なめらかさを下げて苦味を強くすることがわかった。
 また、この結果は、音の好みを問わず引き起こることがわかった。これはつまり、音楽の趣味嗜好を問わず、食べ物の食感を変化させるような共通の音がありうることを示唆している。

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(実験を実施したFelipe Reinoso Carvalhoさん)

 以上のような実験で、音はチョコレートの味を変えることがわかった。こうした「音の調味料(サウンド・シーズニング)」には注目が集まっている。たとえば、ポテトチップスの咀嚼音を聴きながらポテトチップスを食べると硬さが増すことを示した実験は、2008年にイグノーベル賞を受賞した。近年、シェフが科学者と共同して新しい食体験を生み出す試みが増えているが、そこにサウンドデザイナーが加わるのが当たり前になる日がくるのかもしれない。

 本稿の執筆にあたり、原稿の科学的整合性を丁寧にご検討くださった東京大学の鳴海拓志先生に深く御礼申し上げます。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

*参考文献
Sound-enhanced Gustatory Experiences and Technology

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Cooperator

narumi_2(1) 鳴海拓志

 鳴海拓志(なるみ・たくじ)。東京大学大学院情報理工学系研究科にて講師を務める。専門分野はバーチャルリアリティや五感インターフェース。バーチャルリアリティや拡張現実感の技術と認知科学・心理学の知見を融合し、限られた感覚刺激提示で多様な五感を感じさせるためのクロスモーダルインタフェース、五感に働きかけることで人間の行動や認知、能力を変化させる人間拡張技術等の研究に取り組む。食関連では、食べ物の味を変える拡張現実感システム「メタクッキー」や、満腹感に影響を与えて食べる量を変える拡張現実感システム「拡張満腹感」などを開発している。また、URCFクロスモーダルデザインWGにて、多感覚を活用した体験デザインを議論するワークショップを開催中。

◎研究室:東京大学大学院情報理工学系研究科 廣瀬・谷川・鳴海研究室
◎主な業績(2017年1月現在)
日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省 Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。

 

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