本能は「逆三角形」に反応しやすい?見つけやすいパッケージの心理学
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 パッケージデザインは商品との出会いを左右する。たとえ商品は同じでも、デザインに引きがなければ、そのまま右から左に受け流されてしまう。数ある商品の中からどうにかお客様の瞳の住人になれるよう、商品開発に携わる者たちは、色や模様、ロゴなどにあらゆる創意工夫を凝らしている。デザインの流行は刻一刻と変化するので、トレンドを意識することも欠かせないだろう。

 しかし、時代を問わず、人には本能的に反応しやすい「形」があるようだ。形と心理にまつわる実験を紹介しよう。

ナイフの形?怒った顔?「逆三角形」は警鐘を鳴らす

 物の形は、さまざまな感覚を引き起こす。たとえば、下記の2つの図形に名前を付けるとする。この2つに「ブーバ」と「キキ」、どちらかの名前を付けるとしたら、どちらの図形が「ブーバ」で、どちらが「キキ」だと思うだろうか。

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 おそらく曲線の図形がブーバで、ギザギザな図形がキキだと思ったのではないだろうか。これは「ブーバ・キキ効果」という現象で、国籍や性別に関わらず98%近い人がそのように思うらしい。このように人は、物の形から特有の感覚を想起する。しかも、無意識的に。

 こうした無意識的な感覚を想起する形の一つに”逆三角形”がある。人は、上向きの三角形よりも下向きの三角形を見つけやすいことが知られている。たとえば、下図のように、上向きの三角形の中から下向きの三角形を見つけるのと、下向きの三角形の中から上向きの三角形を見つける実験では、下向きを見つける方がはるかに見つけやすいことがわかっている。

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 これはdownward-pointing triangle superiority(DPTS)効果と呼ばれているもので、逆三角形が、鋭く尖ったナイフや人の怒った顔など、危険なものと結びつくことが理由だと考えられている。人の注意は、危険なものに敏感な性質を持っている。嬉しいことは忘れてしまっても、悲しいことはずっと覚えているのも、そうした性質のためだ。

見つけやすいワインラベル

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 台湾の心理学研究者のXiaoang Wanさんらは、このDPTS効果をワインのラベルに応用することを考えた(*1)。

 まず、ワインのボトルに三角形が印字されたラベルをつけて、先ほどのように並べた。パターン1は上向きの三角形の中に1本だけ下向きの三角形を混ぜたもので、パターン2はその逆である。

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 パターン1と2で、1つだけ向きの異なる三角形を探してもらう実験を行ったところ、パターン2よりもパターン1で下向きの三角形を見つけるまでにかかった時間の方が早かった。さらに、ワインの本数を変えて同じように実験したところ、ワインの本数が8本以上に増えるにつれてDPTS効果がでやすくなることがわかった。

 つまり、下向きの三角形は、ワインのラベルになっても注意を集めやすいことがわかったのだ。Wanさんらはこの実験結果を受けて、このラベルのついたワインが店舗に並んだ想定で、ショッピングシミュレーションをしてもらう実験も進めている。

尖ったよりも丸みのあるものが好まれる?

 こうした研究が進むことで、人が思わず注目しやすいパッケージやロゴの特徴が明らかになってくるかもしれない。ただし、もちろん目につきやすいだけでは不十分だ。それを示す実験は、イギリスの心理学研究者・Westermanらによって行われた(*2)。

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 この実験では、水やウォッカのラベルに、尖った三角形と丸みを帯びた三角形を左右上下に並べたデザインを使って、その印象を調べた。その結果、角のある形よりも丸い形のラベルよりも丸い形のラベルのものの方が好まれやすいことがわかった。尖った下向きの三角形は目につきやすいかもしれないが、ブランドへの印象形成の面では、必ずしも吉と出るとは限らないようだ。

 それでも、こうした心理学実験がパッケージデザインに役立つことは間違いないだろう。これまで無意識的に行われてきた、特定の形に抱く曖昧な感覚を洞察することが、今後のパッケージには求められていくのかもしれない。

 本稿の執筆にあたり、原稿の科学的整合性を丁寧にご検討くださった東京大学の鳴海拓志先生に深く御礼申し上げます。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

*参考文献
(1) Visual Search for Triangles in Wine Labels
(2) The design of consumer packaging: Effects of manipulations of shape, orientation, and alignment of graphical forms on consumers’ assessments

Cooperator

narumi_2(1) 鳴海拓志

 鳴海拓志(なるみ・たくじ)。東京大学大学院情報理工学系研究科にて講師を務める。専門分野はバーチャルリアリティや五感インターフェース。バーチャルリアリティや拡張現実感の技術と認知科学・心理学の知見を融合し、限られた感覚刺激提示で多様な五感を感じさせるためのクロスモーダルインタフェース、五感に働きかけることで人間の行動や認知、能力を変化させる人間拡張技術等の研究に取り組む。食関連では、食べ物の味を変える拡張現実感システム「メタクッキー」や、満腹感に影響を与えて食べる量を変える拡張現実感システム「拡張満腹感」などを開発している。また、URCFクロスモーダルデザインWGにて、多感覚を活用した体験デザインを議論するワークショップを開催中。

◎研究室:東京大学大学院情報理工学系研究科 廣瀬・谷川・鳴海研究室
◎主な業績(2017年1月現在)
日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省 Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。

 

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