プロと素人の料理は何が違うのか?調理操作の違いを可視化
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 自宅で料理やお菓子作りをするときには、たとえどんなに丁寧に作ったとしても、プロの味にはなかなか近づかないだろう。同じ材料・手順で作るにも関わらず、私たちはどうしてプロの味を真似する事ができないのだろうか。

 最大の理由は、調理工程の操作がわずかに異なることである。皆が「レシピ通り」にやっているつもりでも、火加減や手の動き、食材の混ぜ合わせ方などは千差万別だ。料理は化学反応であることを考えると、こうした違いの積み重ねは、最終的な仕上がりの大幅な違いを生んでしまう。

 プロの味に近づく秘訣は、プロと同じように調理操作を行うことである。そのためには、まず、一般人とプロの違いを明確にする必要がある。この記事では、一般人とプロの違いの可視化に挑戦した事例を紹介しよう。

ジャガイモの裏ごし操作の運動解析

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 まずは、マッシュポテトを作るときに行う、ジャガイモをなめらかにするための裏ごし操作を例に見てみよう。フランス料理歴30年のベテランシェフと、調理の基礎を学び調理経験が半年の初学者に、ジャガイモの裏ごし操作を行わせ、それぞれの動作分析を行った実験がある(*1)。

 運動解析とは、スポーツのフォーム改善や歩行リハビリなどでよく使われる手法であり、動きを定量的に表現するための解析である。たとえば、「フォースプレート」と呼ばれる専用の台の上で歩行を行うと、足にかかる力を3次元的に分解しながら追跡することができる。

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(画像:https://www.youtube.com/watch?v=95wArD-Ne3Q よりキャプチャ)

 この方法を調理操作にも応用し、裏ごし器の下にフォースプレートを設置して、裏ごし器にかかる力を追跡した。また、裏ごし操作を撮影することで、ヘラの動きも同時に解析した。

 その結果、一定の量のジャガイモを一定の力で周期的に押し付けるというやり方はベテランシェフも初学者も同じであった。しかし、ベテランシェフは、1回に押し付けられるジャガイモの量が少なく、より高頻度で押し付けがなされていたのに対し(1回あたり平均0.29秒)、初学者は、1回に押し付けらるジャガイモの量が多く、押し付けの頻度が少ない(1回あたり平均0.64秒)という違いがあることがわかった。

 押し付ける時の力の大きさにも違いが見られ、ベテランシェフは初学者よりも2倍ほど小さな力で押し付けを行っていることも明らかになった。さらに、裏ごし時のヘラの角度にも違いがあり、初学者は0〜10度で押し付けている時間が長いという特徴が見られた。ベテランシェフの操作の中には0〜10度での押し付けは観察されなかった。

 このように、ベテランシェフと初学者では、裏ごし操作のやり方が明確に異なることが判明したのだ。そして、実際にこれらの動作は、ジャガイモの状態を変化させるようだ。

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(画像:「運動解析法によるジャガイモの裏ごし操作における熟練者と非熟練者の比較」よりキャプチャ)

 左がベテランシェフ、右が初学者のジャガイモである。ベテランシェフのジャガイモの細胞(黒丸)は壊れずに保たれており、でんぷんが細胞内に保たれたままであった。一方で初学者のジャガイモの細胞は壊れ、でんぷんが外に漏れ、細胞同士がくっついてしまっているような様子であった。操作の違いは、細胞レベルで最終的な仕上がりに影響するのだ。

ホワイトソースの混ぜ方や目配りにも違いあり

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 先の研究グループ(味の素(株)食品研究の野坂千秋さんを筆頭)は、ホワイトソースを作る時の攪拌操作についても、ベテランシェフと初学者の違いを調べた(*2)。その結果、牛乳を5回に分けて加える操作を行う際、ベテランシェフの混ぜ速度は速く、回数を重ねるごとさらに速くなった一方で、初学者は速度が遅く、3回目以降の速度は減少するような違いが見られた。

 こうした違いはソースの状態にも影響した。

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(画像:「ホワイトソース物性へ及ぼす調理操作条件の影響 : シェフと非熟練者の撹拌条件の例」よりキャプチャ)

 ベテランシェフのソースはでんぷんが一粒ずつ均一に分散し、タンパク質と分離していたのに対し、初学者のソースはでんぷんとタンパク質が絡まった構造をしていた。平均的な粒子の大きさは初学者のソースは5倍ほど大きかった。また、油脂においても、ベテランシェフのソースは油脂が均一に分散して乳化しているのに対し、初学者のソースは油脂が大きく、合体しているものも見られた。粒子の大きさは口当たりに大きな影響を与えるため、こうした違いは味の違いを直接的に生み出すだろう。

 他にも、炒め物調理において、ベテランシェフは初学者よりも重要な場所に高頻度で目配りをしていることが明らかになった事例もある(*3)。手の動かし方だけでなく、作り手がどこに注意を向けるかによっても、調理工程の質が変化してくるのだ。

 プロが非言語的に身につけてきた匠の技は、細かな優れた技術の集合体であることを改めて思い知らされる。しかし、匠の技を定量してデータ化し、人工知能に学習させるなどして、匠の技を家庭にも取り込める時代が近づいている。プロと素人の違いは分析することは、こうした未来を形づくる上で大変価値があるだろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 運動解析法によるジャガイモの裏ごし操作における熟練者と非熟練者の比較
*2 ホワイトソース物性へ及ぼす調理操作条件の影響 : シェフと非熟練者の撹拌条件の例
*3 炒め調理における目配りと調理技術に関する研究

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