農業の革命は「菌」が起こす──植物の育成を効率化する"植物内細菌"研究が進む
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植物は動けない。たとえ天候が悪くても、害虫が襲ってきても、逃げることはできない。動けない植物は、麻薬となる成分や毒物となる成分など、多種多様な成分を作り出すことで、外敵から身を守る手段を発達させてきた。

しかし、植物の身を守る立役者はそれだけではない。

目には見えないが、人間や多くの生き物の体の中には、数え切れないほどの菌がすんでいる。菌の活動は、脳や遺伝子とともに、私たちの心身の状態を左右するファクターだ。特に、人の腸内にすむ「腸内細菌」は、病気の予防や心身の健康と密接しているとして注目を集めている。

植物のもつ菌もまた、人のもつ菌と同様に、植物の体に有益な機能をもたらすのではないか。"植物内細菌"の研究が、農業関係者の間で、密かに熱を帯び始めた。

菌は農薬や肥料の代わりになる

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水不足や雑草の繁殖、害虫による病気の発生など、作物を育てる上での課題は多い。除草剤や殺虫剤、殺菌剤などの農薬は、こうした課題から作物を守りながら生育するために使われる。とはいえ、農薬の使用をめぐっては、安全性や心理的抵抗感についての賛否両論がつきまとう。

そこで、アメリカのIndigo Agriculture社(https://www.indigoag.com/)は、菌を農薬代わりにすることを考えた。菌の種類は多く、それぞれの菌が作り出す成分はことなる。菌の種類によっては、農薬の代わりとなるような成分を作ってくれる可能性があるかもしれないのだ。

これまで、植物と菌といえば、生物の教科書によく出てくるような、窒素や炭素の循環に関わる土の中の菌についての研究が多かった。しかし、Indigo Agriculture社が注目したのは、植物の中にいる菌である。

植物内の菌はこれまであまり焦点が当てられてこなかった存在だが、人にとっての「乳酸菌」や「ビフィズス菌」のような、植物にとって有益な菌を発見できれば、植物の性質を体の中から変えられるかもしれない。

たとえば、水分を効率よく使えるようになることで乾燥地帯でも生育できるようになる、菌が作る成分が栄養となって肥料が不要になる、などが期待できる。

有用な菌をコーティングした種子の開発

Indigo Agriculture社は、植物の中にいる約40000種類の菌についてのゲノム解析を行った。ゲノム解析を行うことで、それぞれの菌がどのようなはたきらきをするかを予測できる。

このデータをもとに機械学習を行い、トウモロコシや米、小麦などの作物の生育に最も影響をもたらす菌の予測を行なった。目指しているのは、こうして明らかになった「有益な菌」をコーティングした種子の販売である。

種にコーティングされた菌は、発芽とともに植物の中に入り込んではたらく。種に薬剤や農薬をコーティングする方法自体は以前からあったが、菌をコーティングする例は珍しい。

Indigo Agriculture社は2016年より、南米や北米で、菌コーティング種子を使ったフィールドテストを実施している。これまでの実験結果によれば、作物の収量が10%ほどアップできそうだという。

菌の種類は多く、まだどの種類の菌がどのようなはたらきをしているかを一つ一つ確認できるまでは時間がかかるだろう。しかし、近年の農業や酪農は、効率化の流れから、生き物の自然な営みに任せる流れへと変わりつつある。有機農法や放牧酪農がその例だ。

もちろん、「自然」「天然」だからといって、作物や牛乳の質が必ずしもよくなるとはいえない。しかし、"自然な営み"を客観的なデータに変換し、自然な営みを後押しするような形で人が手を加えることができれば、安全性や安心と生産性の担保の両立が可能となるだろう。

アプリやセンサーを用いた農業である「アグリテック」に次いで農業を進化させていくのは、菌の存在かもしれない。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

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