「細胞培養フルーツ」は、おいしく栄養を摂れるスーパーフードになりうるか?
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ボタンひとつで好きな料理を作りたてで提供してくれるロボット。生体データを読み取ってその時の体にふさわしいレシピを提案してくれるデバイスSFが描く未来の食生活は、今よりはるかに発展しているかもしれない。

しかし、現実には、今から30年もすれば、人口増加や環境資源不足によって、食料生産は限界を迎えるといわれている。現在の豊かな食生活は、決して当たり前のものではないのだ。

おいしいものを好きなだけ食べられる生活を続けるには、食料生産のあり方を今から変えていく必要がある。新しい食料生産の手段のひとつが、「細胞農業」だ。

「生命の最小単位」から食料をつくる細胞農業

農業が始まって以来、野菜を収穫するためには種から野菜を育て、肉を得るためには牛や豚を育てることで食料を得てきた。つまり、植物や動物の持つ"子孫を残す力"を利用して、食べ物となる個体を増やしてきたのだ。

しかし、植物や動物を育てるのにはさまざまなコストがかかり、地球の資源を消費する。この先30年で、人口増加に伴って今よりも60%ほど多くの食料が必要になるものの、農地は今の2%ほどしか増やすことができないと言われている。

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そこで考え出されたのが「細胞農業」である。細胞はすべての生き物を構成する最小単位で、野菜も肉も、すべて細胞の集まりによって構成されている。見方を変えれば、ある食べ物の細胞の構成を1から再現できれば、その食べ物を人工的に作ることができると言えるだろう。

たとえば、肉は主に筋肉細胞と脂肪細胞、結合組織などでできているため、これらの細胞を人工的に増やして組み合わせれば、理論的には肉が再現できると言える。

細胞を増やすための「細胞培養」の技術を使って、細胞から食料を生産する次世代の農業を、細胞農業と呼ぶ。細胞農業はまだ発展途上であるが、これまでには、培養肉(純肉)を使ったハンバーガーの生産や、酵母菌の細胞を培養した牛乳の生産を試みた事例がある。

あるアメリカの純肉メーカーは、安全性試験がクリアできれば今年中にも市場に出回ると述べているほど、細胞農業は少しずつ私たちの身近な存在になり始めている。

「細胞培養フルーツ」はおいしくて栄養豊富?

今月14日に『Food Research International』誌にて発表された研究によれば、肉や牛乳だけでなく、細胞培養で野菜や果物の代わりとなるものを作れるかもしれないという。

フィンランドのVTT技術研究センターの研究者らは、クラウドベリー、キイチゴ、コケモモの3種類の細胞(カルス)を培養したものを作成した。

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(画像:Plant cells as food – A concept taking shape より)

培養すると、上の画像のようにシャーレ一面に細胞が増える。上から順にクラウドベリー、コケモモ、キイチゴである。左側が新鮮な細胞で、右側が凍結乾燥した細胞である。ジャムやドライフルーツパウダーのような見た目をしている。

これらの細胞サンプルについて、炭水化物、脂質、タンパク質などの栄養成分分析や、消化のしやすさ分析、人による官能評価を行った。その結果、これらの栄養成分が、通常の果実の状態のときよりも高い割合で含まれていることが分かった。

特に、タンパク質の割合は14〜19%ほどであった。この値は、栄養価の高さから「スーパーフード」と呼ばれている藻類に匹敵するほど高かった。また、大豆のタンパク質と同等の必須アミノ酸を含んでいる、すぐれたアミノ酸組成をしていることも分かった。

さらに、食物繊維は21〜37%であり、朝食用のシリアルよりも多く含んでいるという。

気になるのは味であるが、官能評価の結果、新鮮なものは本物の果実に似た風味で、ざらつきがあり、凍結乾燥したものはベリーらしい風味が強く、口の中で溶けたという。凍結乾燥したコケモモは苦味や渋みがあったようだが、全体として食用化への期待は持てそうな結論に至ったようだ。

 

自然に作られる果実の個数には限りがあるほか、農園の広さにも限界がある。一方で、細胞培養であれば、元の細胞と培養環境さえあれば理論上は好きなだけ増やせるほか、ラボのような狭い空間でも果実の栄養を持つ食べものを生み出すことができる。

こうした利便性を持つ細胞農業では、冒頭で述べたような人類をとりまく環境の変化に左右されずに、食糧を安定的に生産し続けられる可能性があるのだ。

さらに、培養の条件を工夫することで、さらに栄養価の高いものができあがり、「スーパーフード」と呼べるものを人工的に作り出すこともできるかもしれない。

「細胞培養フルーツ」の研究はまだ始まったばかりだが、近未来の食を構成する一員になる可能性は大いにあるだろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
Plant cells as food – A concept taking shape

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