牛乳の進化に欠かせない、新しい酪農をつくるテクノロジー
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食品に求められるものは、もはやおいしさだけではない。

私たちは、豊かな食生活を手に入れた一方で、肥満や生活習慣病といった新たな問題に直面している。そこで人々は、食品に、食べることで健康をサポートする「機能性」を求めるようになった。脂肪の代謝を高める成分を含む緑茶や、乳酸菌を含むチョコレートなど、機能性を持った商品は次々と登場している。

身近な食品である牛乳もまた、機能性を高められる食品として期待されている。牛乳の進化を支えるのは、酪農を変革する科学とテクノロジーだ。

1)牛のデータをセンシングして飼育

牛の健康管理、乳搾り、妊娠や分娩の管理…酪農家の仕事はハードワークである。それゆえ、牧草地に放し飼いではなく牛舎内で整列させて飼育するなど、牛の飼育は効率重視であった。牛のストレスや酪農家の負担などの面で、そこには改良の余地があった。

しかし、さまざまなモノがインターネットに繋がれる現在、酪農にも変化が起こり始めている。牛に生体センサーをつけて、体温や活動量などの生体データをリアルタイムで取得し、アプリを使って牛を管理することが可能となってきたのだ。

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(画像:https://farmnote.jp/color/index.html より)

サービス事例として、たとえば日本の「Farmnote」では、センサーを通じて牛の活動量、食べ物の反芻時間、休憩時間などのデータをリアルタイムで取得することができる。また、イスラエルの「SCR」では、健康や栄養状態、ストレスレベル、妊娠や流産の確率などを知ることができる。

このようなサービスを使うことで、遠隔で牛の管理ができるようになり、酪農家の負担を減らしながら、より効率的な飼育が可能となってきた。

2)栄養価の高い「放牧牛乳」が作れるように

センサーやアプリと共に注目を集めているのが、ドローンの農業利用だ。ドローンで上空から農地全体を撮影することで、遠くにいても、作物の状態や家畜の移動などを把握することができるようになる。

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(画像:https://www.djistore.co.nz/agriculture/ より)

こうした技術によって、牛乳のパッケージに描かれているような、牛をのどかな牧草地で飼育することも可能となる。牧草地で放し飼いにして育てる方法は「放牧」として知られている。

実は、牧草を食べながら育った牛の「放牧牛乳」は、ビタミンEやベータカロテンなど、牛乳に含まれる栄養価が高くなることが知られている。先月、学術誌『Food Science & Nutrition』にて発表された研究(*1)では、自生する牧草とマメ科飼料を食べながら育った牛の牛乳では「オメガ3脂肪酸」の割合が高くなることが示された。

牛乳の質は、牛のエサの種類を変えることで変化しやすい。たとえば、通常のエサにシナモンやバジルを混ぜたものを与えると、牛乳には、シナモンやバジルの成分である「シンナムアルデヒド」「d-カルボン」などが含まれるようになる。

牛の飼育をテクノロジーで最適化することで、放牧での飼育や、飼料の工夫を行う余裕が出てくることだろう。

3)「牛の中の微生物」も牛乳の質を変える?

さらに、研究は次のステージへ進もうとしている。

近年、人の腸内にすむ腸内細菌が、私たちの健康や精神状態に影響を与えるとして注目を集めている。もちろん人以外の動植物の体内にもさまざまな微生物がすんでいるが、その実態はまだあまり解明されてない。

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エジンバラ大学の研究者らは、牛の胃の微生物に注目した。牛は四つの胃を持っており、そのうちの「第一胃」は最もサイズが大きく、食べ物が最初に送られる胃である。第一胃には、さまざまな微生物がすんでおり、食べ物を分解すると言われている。

第一胃にすむ微生物の種類を解明するために、研究者らはゲノム解析を行った(*2)。その結果、43匹の牛の第一胃から913種類の微生物を同定することに成功した。その多くはまだ研究が進んでいないものであったが、中には、牛乳の収量と相関する微生物も存在していたという。

これらの微生物が食べ物をどのように代謝するか解明が進むことで、人が腸内細菌を意識してヨーグルトや食物繊維を食べるように、牛の胃の微生物を意識したエサを与えることもできるかもしれない。

 

このように、酪農にまつわるテクノロジーや科学研究の発展は、牛乳の生産性を上げたり、栄養価の高い牛乳を作れたりする可能性を秘めている。いずれもまだ始まったばかりであるが、今後酪農業界が面白くなることは必至だろう。

執筆:大嶋絵理奈(Facebookでフォロー

参考文献
*1 Enhancing the fatty acid profile of milk through forage‐based rations, with nutrition modeling of diet outcomes
*2 Assembly of 913 microbial genomes from metagenomic sequencing of the cow rumen

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